速魚の船中発策ブログ まとめ





新・所得倍増論


中小企業基本法


のんきな議論


「最低賃金引き上げ=中小企業倒産」の図式が神話に過ぎない理由


日本経済が「コロナ危機」にこれほど弱い根因
スペイン、イタリアと共通する「脆弱性」とは


日本の最低賃金「メキシコ並み」OECD25位の衝撃


日本の労働生産性は「韓国以下」世界34位の衝撃
最新版「世界ランキング」の凋落が止まらない


日本人の「給料安すぎ問題」の意外すぎる悪影響
「monopsony」が日本経済の歪みの根本にある


コロナ禍で終わる「日本人の異常な安売り信仰」
「良いものを安く」では危機への備えは不可能


コロナ不況でも「最低賃金引き上げ」は必要だ
ドイツとイギリスから得られる教訓とは何か


コロナで露呈した「日本経済の脆弱性」の根因
「危機への対応」でも中小企業の弱さが目立つ


サービス業は「日本の低生産性」の主犯ではない
「サービスはタダ」と低生産性には関係がない


生産性低迷は「下請けイジメのせい」という誤解
「一部の事例」を一般化するのは間違いの


最低賃金「韓国の大失敗」俗説を信じる人の短絡
国の大問題を語る人に「落ち着け」の一言を贈る


人口減少の日本には「所得倍増計画」が不可欠だ


無能な社長を増やす「給料安すぎ日本」の大問題
「モノプソニー」をなくして経営者を鍛えよ


コロナ後に「日本人の生活水準」を下げない秘策
「生産性を高めない企業」への支援はやめよう


 菅首相はアトキンソン信者、

























































































































































































































アトキンソン まとめ






 もう忘れ去られたオランダ人のウオルフレン。しかし「説明責任」という言葉を残した。 グロ−バリズムで活躍した「大前研一」、もう生彩がない。 日本にその時代を先導したアナリストは多い。 今は個人的には「デ−ビット・アトキンス」が訴え掛ける。 京都の歴史ある企業の社長になった異色の青い目の外人であったが,それだけではなく活躍していると小生には思える。  ここに「まとめ」てみました。

        2020-4-22






   新・所得倍増論 デ−ビット・アトキンソン

    




 日本の文化財を修復する会社の青い目の社長をしているアトキンソンの著です。生き馬の目を抜く元ゴ−ルドマン・サックスのパ−トナ−まで務めた人でもあります。

 日本の失われた10年と言っていたのが20年にもなり、アベノミクスの効果も上がっておりません。現在我が家の南側・東側に新築や建て替え工事が進捗中です、この町内でも新しい家が随分と増えました、低金利による建て替えブ−ムが起こっているようには見えますが、その程度では景気はビクともしません。根が深いといえます。

 彼によるとGDP=人口x生産性であり、戦後に、奇跡の日本の躍進は爆発的な90年代までの人口膨張によるのであるといいます。 確かに日本の潜在的な能力は高いけれど、生産性は低くく、それに経営者の怠慢と人口ボ−ナスが減ったので、90年以降のGDPは停滞・縮小してきた。 また、過去の成功体験を間違った認識で理解して、見直せないのが現状のザマである。 現在生産性は先進国再開の世界27位である。

 彼によれば、企業経営者に時価総額を上げる経営を要求すべし。確かに現在は株の40%余りを日銀が所有しています。そのことは健全な日本株市場ではありません。しかし、米英なみの会社時価に日本の会社株価が上がれば、国が多く所有していますので、その値上がりで、年金・医療は安泰になります。給料もあがります。よい循環になるでしょう。

 先の大戦も軍部指導層の無能ゆえともいわれています。世界一優秀な下士官・兵でも負けました。 日本の優秀な知恵を集めた陸海士官学校出の将軍たちの及ぼした敗戦です。 日本の経営者が過去の戦後経済復興の成功体験に甘んじているとすれば、また歴史は繰り返すといったところでしょう。

 この本はアカンタビリテイを知らしめたオランダ人の本に比べれば、すっきりした感が少ない個人的な印象です。大前研一さんが低欲望社会から提言されていますが、合わせて考えないといけないのかもしれません。こちらの能力を超えているようですが。


                2017-1-20


  ベイシックインカムをやるにしても現状を固定したままでは、新たな問題の創出に終わるのかもしれません。アトキンソンさん自身でまとめたものを出されていますので転載いたします。 小さな古い企業を再生させたに過ぎない人に大きな日本のことを改革できるわけがないと批判する人もいるようです。形式的なことで述べているだけで、彼の内容について具体的な議論を聞いたことはありません。考えはいろいろなので良い議論でさらに向上できるといいです。 福井モデルと関連してアトキンソンさんを読んでみるとおもしろい。










 「中小企業基本法が諸悪の根源」



  日本では法律の改正が行われると、改正前に存在したものは変えられることなく既得権として、以後もそれは存在します。 それはいつまでも改革されることなく存立していくことになります。 このことが一気に変革できなくて変われない日本ということです。 時限を区切ってでもそれを変えようとすることすらありません。

 アトキンソンさんのいうように、競争力の無い企業が賃金を上げないということのみで存続して、いつまでも購買力が上がらず、30年間の停滞を招いたのでしょう。 この間に日本は1割の賃金低下、先進国は1.8倍の上昇。倍近くの差になったわけです。インバウンド盛況のこの頃ですが、かっての欧州におけるEC加入前のスペインと日本は同じ状態ですね。 すなわち、観光客が安くておいしい食べ物がある地スペインとして英国人・フランス・ドイツ人が訪れるわけです。 安くておいしい和食の地ニッポンです。 今では、 欧米のランチの価格を知るとびっくりします。それでは私たちはとても食べられません。 日本はこのような位置まで来てしまいました。





  この法律が日本を「生産性が低すぎる国」にした
    デービッド・アトキンソン 2019/10/03 07:30



  https://toyokeizai.net/articles/-/305116  リンクが切れないように下記に転載させていただきました。


 「町のラーメン屋が多すぎるといって10軒を1軒にまとめたところで中国には勝てません」
 私の主張はまったく違います。今は10軒のラーメン店の裏に10社の企業があるので、10軒のラーメン店をそのままにして、それを所有している企業を2、3社にまとめようということです。

 日本の生産性が低いのは「働き方」の問題ではない

 さて、日本の生産性が一向に上がらず、デフレからも脱却できないという厳しい現実に対して、これは日本人に働き方に問題があるからだと主張する方たちが多くいらっしゃいます。
 日本人はすばらしい能力をもっているのに、働き方が悪いのでその実力が引き出されていない。だから働き方を変えれば景気もよくなっていく、というのが彼らの主張です。
 しかし、経済分析の世界では、これは「願望」というか、まったくの見当外れな分析だと言わざるをえません。これだけ大きな国の経済が「働き方」程度の問題によって、20年も停滞することなどありえないからです。
 では、何が日本の生産性を低くさせているのでしょうか。これまで30年にわたって、日本経済を分析してきた私がたどり着いた結論は、「非効率な産業構造」です。高度経済成長期から引きずっている時代錯誤な産業政策、非効率なシステム、科学的ではない考え方などが日本の生産性を著しく低下させているのです。


 ただ、日本国内ではこのような意見を掲げる人はほとんどいらっしゃいません。政治家、エコノミスト、財界のリーダーたちの大多数は経済低迷の要因を、「産業構造」に結びつけず、ひたすら「労働者」へと押し付けています。
 このあまりに”残念な勘違い”を象徴しているのが、「働き方改革」です。
 残業を減らし、有給休暇を増やす。女性にも高齢者にも、働きやすい環境を作る。そうすれば、労働者のモチベーションが上がって、これまで以上によく働く。その結果、会社の業績も上がるので景気がよくなる。


 驚くほど楽観的というか、ご都合主義な考え方です。繰り返しますが、この程度の施策で巨大国家の経済が上向くのなら、日本はとうの昔にデフレから脱却しています。20年も経済成長が滞っているという事実こそが、労働者個人の頑張りでどうにかなる問題ではないことを雄弁に物語っているのです。


 日本に欠けているのは「徹底した要因分析」だ


 そこで次に疑問として浮かぶのは、なぜこうなってしまうのかということでしょう。なぜ表面的な経済議論しか行われないのか。なぜ国の舵取りをするリーダーや専門家から、泥縄的な解決策しか出てこないのか。
 1つには、日本では「徹底的な要因分析」をしないという事情があります。この30年、多くの日本人と議論を交わして気づいたのは、経済の専門家を名乗る人たちでさえ、起きている現象についての知識はすごいものの、その原因を徹底的に追求することはほとんどありません。原因の説明は表面的な事実をなぞるだけで、「なんとなくこういう結論になるだろう」と直感的な分析をしているのです。


 どういうことかわかっていただくため、多くの識者が唱える「女性活躍で生産性向上」という主張を例に出しましょう。
 生産性の高い先進国では女性活躍が進んでいるという事実があります。一方、生産性の低い日本では、女性活躍が諸外国と比較して際立って進んでいないという、これまた動かしがたい事実があります。この2つの事実をもって、専門家たちは、日本も諸外国並に女性に活躍してもらえば、諸外国並に生産性が向上するに違いない、と主張しているのです。


 確かにそういう理屈も成り立つかもしれませんが、実はここには大きな落とし穴があります。「日本の女性活躍が諸外国と比較して際立って進んでいない」ということの要因を分析できておらず、「日本は伝統的に女性が蔑視されている」「働きたくても保育所が不足している」という、なんとも大雑把な話しか語られていないのです。


 このあたりの要因分析を徹底的に行えば、「保育所さえあれば女性が活躍できる」という極論がいかに表面的な分析に基づく主張かということは明白です。
 海外の要因分析では、女性が活躍できていない国は、労働人口の中で、規模が小さくて経済合理性の低い企業で働く労働者の比率が高いという傾向があることがわかっています。
 これは冷静に考えれば当たり前の話です。小さな企業は産休や育休、時短などの環境整備が難しいので、どうしても女性が働き続けることのハードルが高くなるのです。これが一次的な問題です。女性を蔑視する価値観や保育所の数などは、あくまで二次的な問題にすぎません。
 当然ながら、まずは女性が活躍できる産業構造に変革した後で、具体的な環境作りに取り組むべきです。しかし、一次的な問題を解決せずに、二次的な問題を解決するだけでは、根本的な解決にはなりません。つまり、女性活躍というのは、女性蔑視うんぬんや保育所の数という二次的な問題より、その国の産業構造によって決まるというのが世界の常識なのです。
 このような要因分析をロクにしないまま「女性活躍」を叫んで、働くように女性の背中を押しても、生産性向上につながるわけがありません。
 これは同じく生産性向上が期待されている「有給休暇」についてもまったく同様です。
 生産性が高い国では、有給休暇取得率が高い傾向があります。そして、日本は有給休暇取得率が低いということで、これを高めていけば、生産性も上がっていくだろうというわけです。しかしこれを本気で進めるのならば、そもそもなぜ日本の有給休暇取得率が低いのか徹底的に要因分析をしなくてはいけません。


 日本では、「日本人の真面目な国民性が関係している」「日本は集団主義で職場に休みにくい雰囲気がある」と、これまた直感的な理由しか出てこないでしょうが、海外では「有給取得率は企業規模と関係する」という要因分析がなされています。大企業になればなるほど有給取得率が上がり、小さな会社になればなるほど下がることがわかっているのです。この傾向は万国共通で、日本も例外なく当てはまります。
 つまり、アメリカの有給取得率が高いのはアメリカ人の国民性ではなく、単にアメリカの労働者の約50%が大企業で働いているから。日本の有給取得率が低いのも日本人の国民性ではなく、単に日本の労働者の中で大企業に勤めている人が約13%しかいないからなのです。
 長く分析の世界にいた私からすれば、国民性うんぬん、労働文化うんぬんというのは、科学的な分析から目を背けて、自分たちの都合のいい結論へと誘導していく、卑劣な論法だと言わざるをえません。


 日本の低迷の主因は伸びない中小企業


 さて、このように日本の専門家があまりしてこなかった「要因分析」というものを、日本経済を低迷させている諸問題に対して行っていくと、驚くべきことがわかります。
 実は日本経済の低迷も、女性活躍や有給取得率でもそうだったように、最後は必ず「小さな企業が多すぎる」という問題に突き当たるのです。低賃金、少子化、財政破綻、年金不足、最先端技術の普及の低さ、輸出小国、格差問題、貧困問題……さまざまな問題の諸悪の根源を容赦なくたどっていくと、「非効率な産業構造」という結論にいたるのです。
 それはつまり、日本が他の先進国と比べて、経済効率の低い小さな企業で働く人の比率が圧倒的に多く、そのような小さな企業が国からも優遇されるということです。実は日本は、生産性の低い「中小企業天国」と呼べるような産業構造になっているのです。
 このような話をすると、「小さな企業が多いのは日本の伝統で、普遍的な文化だ」とこれまた漠然とした主張をする人たちが多くいらっしゃいますが、実はこれも表面的な分析に基づく”残念な勘違い”なのです。
 歴史を振り返れば、小さい企業が多いのは日本の普遍的な文化だと言えるような客観的事実はどこにも見当たりません。むしろ、ある時期を境にして、現在のような「他の先進国と比べて小さな企業で働く人の割合が多すぎる」という産業構造が出来上がっていったことがよくわかります。
 では、その時期はいつかというと、「1964年」です。
 この年、日本はOECD(経済協力開発機構)に加入しましたが、その条件として突きつけられたのが、かねてより要求されていた「資本の自由化」でした。当時の日本では、資本が自由化されれば外資に乗っ取られるかもしれないという脅威論が唱えられ、護送船団方式など「小さな企業」を守るシステムが続々と整備されました。つまり、1964年というのは、日本を「低生産性・低所得の国」にした「非効率な産業構造」が産声を上げたタイミングなのです。


 日本を「生産性の低い国」にした中小企業基本法


 そして、この「1964年体制」を法律面から支えたのが、前年に制定された中小企業基本法です。
 同法は当時、「中小企業救済法」とも言われたほど、小さい企業に手厚い優遇策を示したものです。同時にその対象となる企業を絞り込むため、製造業は300人未満、小売業は50人未満とはじめて「中小企業」を定義しました。
 しかし、これが逆効果となってしまいます。優遇措置を目当てに、50人未満の企業が爆発的に増えてしまったのです。
 中には、企業規模を拡大できるにもかかわらず、優遇措置を受け続けたいということで、50人未満のラインを意図的に超えない中小企業まで現れてしまったのです。非効率な企業が爆発的に増え、なおかつ成長しないインセンティブまで与えてしまいました。
 中小企業を応援して日本経済を元気にしようという精神からつくられた法律が、優遇に甘えられる「中小企業の壁」を築き、「他の先進国と比べて小さな企業で働く労働者の比率が多い」という非効率な産業構造を生み出してしまったという、なんとも皮肉な話なのです。
 それでも1980年代までは人口が増加し続けたため、経済も成長を続けました。しかし1990年代に入り、人口増加が止まると、この生産性の低い非効率な産業構造の問題が一気に表面化してきました。
 ちなみに、日本の生産性を議論する際に必ず出てくるのが、日本では製造業の生産性が高く、サービス業の生産性が低いという事実です。この現状を説明するためによく言われるのが「日本人はものづくりに向いている」「サービス産業の生産性が低いのは『おもてなし』の精神があるからだ」という”神話”のような話ですが、実はこれも非効率な産業構造ですべて説明ができます。これもまた、単に中小企業基本法の影響なのです。
 この法律で、中小企業が製造業では300人未満、その他は50人未満と定義されて以降、日本ではこれに沿うような形で企業数が増えていきました。その影響もあって、製造業はどうしても他の業種よりも規模が大きくなりました。
 規模が大きければ生産性が高くなるというのは、先ほども申し上げた経済学の鉄則のとおりです。一方、日本のサービス業は圧倒的に規模の小さな事業者が多く乱立しているという事実があるので、当然、生産性は顕著に低くなるというわけです。
「守りに特化」した経営は暴走していく
 「1964年」と聞くと、ほとんどの日本人は東京オリンピックを連想すると思います。そしてここをきっかけに、日本人が自信を取り戻し、焼け野原から世界第2位の経済大国へと成長していく、というのが小学校の授業などでも習う「常識」です。
 しかし、現実はそうではありません。
 オリンピックの前年からすでに景気は減退していました。急速なインフラ投資の反動で、オリンピック後の倒産企業数は3倍にも急増しています。1964年からの「証券不況」も事態をさらに悪化させて、被害拡大防止のために日銀は公定歩合を1%以上下げました。しかしこれも焼け石に水で、1965年5月には山一證券への日銀特融を決定し、同年7月には、戦後初となる赤字国債の発行も行いました。
 この不況が、「資本の自由化」が引き起こす「外資脅威論」にさらに拍車をかけます。「乗っ取り」や「植民地化」という言葉にヒステリックに反応するうち、やがて財閥系や大手銀行系が手を取り合い、買収防止策として企業同士の持ち合いも含めた安定株式比率を高めていきます。1973年度末の法人持株比率はなんと66.9%にも達しました。
 この「守り」に特化した閉鎖的な経済活動が、護送船団方式や、仲間内で根回しして経営に文句を言わせない「しゃんしゃん株主総会」などを定着させて、日本企業のガバナンスを著しく低下させていったことに、異論を挟む方はいらっしゃらないのではないでしょうか。
 このようにとにかく「会社を守る」ことが何をおいても優先されるようになると、経営者に必要なのは調整能力だけになっていきます。数字やサイエンスに基づく合理的な判断をしないので、他人の意見に耳を貸さず、とにかく「直感」で会社を経営するようになっていくのです。その暴走がバブルにつながります。
 そんな「暴走経営」がこの20年、日本経済に与えたダメージは計り知れません。
 ものづくりメーカーは、社会のニーズや消費者の声よりも、企業側の「技術」や「品質」という直感が正しいと考える「product out」にとらわれ衰退しました。そしてバブル崩壊後も、データに基づいた客観的な分析をせず、直感に基づく表面的な分析をして抜本的な改革ができなかった結果が、この「失われた20年」なのです。
 このように日本経済の衰退を要因分析していくと、「1964年体制」に原因があることは明白です。つまり、「1964年は東京オリンピックで日本の飛躍が始まった年」というのは残念ながら間違いで、実は経済の衰退をスタートさせてしまった「国運の分岐点」なのです。
 「1964年体制」がつくった産業構造を元に戻すことは容易なことではありません。その動かぬ証が、1990年代から実行されたさまざまな日本の改革がことごとく失敗してきたという事実です。その結果、国の借金は1200兆円にまで膨らみました。
 人口減少などさまざまな「危機」が迫る日本には、もはや悠長なことを言っている時間はありません。日本経済を立て直すためにも、古い常識や”神話”を捨てて、数字と事実に基づく要因分析を、すべての国民が受け入れる時期にさしかかっているのです。


    2019-10-16






 日本人の 議論は「のんき」すぎてお話にならない 危機感 をもって「本質」を徹底的に追求せよ




   デ−ビット・アトキンソン


 経済規模を示すGDPは、「GDP=人間の数(つまり人口)×1人当たりの生産性」という式で表すことができます。これから日本では人口が減るので、生産性を上げないと経済の規模が縮小していきます。これは、かけ算さえ知っていれば誰にでも理解できる簡単な事実です。


 人口が減っても高齢者の数は減らないので、年金や医療費をはじめとした社会保障費の負担は減りません。そのため、日本の場合、経済規模を縮小させてしまうことは絶対に許されないのです。


 生産性を上げるとは、労働者の給料を上げること、そのものです。人件費をGDPで割れば、労働分配率が求められます。つまり、生産性と労働者の給料は表裏一体なのです。
 英国銀行は、労働分配率を下げるとデフレ圧力がかかると分析しているので、デフレを早期に脱却するという意味でも、日本は労働者の給料を上げ、労働分配率を高めるべきです。


 生産性向上にコミットする経済政策を「High road capitalism」と言います。「王道」と訳されることもありますが、見方を変えれば「茨の道」とも言えます。当然、その反対は「Low road capitalism」です。こちらは、ある意味で「邪道」とも言えます。
 経済の「王道」と「邪道」
簡単に言うと「High road capitalism」は高生産性・高所得の経済モデルです。「High road capitalism」の根本的な哲学は「価値の競争」です。市場を細かく分けて、セグメントごとにカスタマイズされた商品やサービスで競い合うのが競争原理になります。そのため、商品とサービスの種類が多く、価格設定も細かく分かれています。

 High road capitalismを志向している企業は、商品をいかに安く作るかよりも、作るものの品質や価値により重きを置く戦略をとります。他社の商品にはない差別化要素であったり、機能面の優位性であったり、とりわけ、いかに効率よく付加価値を創出できるか、これを追求するのが経営の基本になります。
 最も安いものではなく、ベストなものを作る。そのスタンスの裏には、顧客は自分のニーズにより合っているものに、プレミアムな価格を払ってくれるという信条が存在します。
 High road capitalismを追求するには、もちろん最先端技術が不可欠です。そして、それを使いこなすために、労働者と経営者の高度な教育も必須になります。同時に機敏性の向上も絶対条件です。
「Low road capitalism」は1990年代以降、日本が実行してきた戦略です。規制緩和によって労働者の給料を下げ、下がった人件費分を使って強烈な価格競争を繰り広げてきました。
 海外の学会では、Low road capitalismに移行すると、一時的には利益が増えると論じられています。しかし、Low road capitalismによって短期的に利益が増えるのは、技術を普及させるための設備投資が削られ、社員教育も不要になり、研究開発費も削減される、すなわち経費が減っているからにすぎません。Low road capitalismは先行投資を削っているだけなので、当然、明るい将来を迎えるのが難しくなります。まさに今の日本経済そのものです。 実は、「Low road capitalism」でも経済は成長します。しかしそのためには、人口が増加していることが条件になります。人口が減少していると、「Low road capitalism」では経済は成長しません。本来「Low road capitalism」は、他に選択肢のない途上国がとるべき戦略です。先進国である日本は「High road capitalism」を目指すべきだったのです。なぜならば、「High road capitalism」こそが、人口減少・高齢化社会に対応可能な経済モデルだからです。


 日本は「のんきな議論」が多すぎる


 今回の記事にはあえて挑発的なタイトルをつけました。このタイトルは、ある意味、私のフラストレーションの表れかもしれません。 それは、今の日本で交わされている議論は日本経済についての現状検証があまりにも浅く、当然それによって、政策は本質を追求できていない、対症療法的なものになってしまっているという印象を強くもっているからです。


 先週の「日本人の『教育改革論』がいつも的外れなワケ」でも若干触れましたが、人口減少にどう立ち向かうべきかについて、日本で行われている議論の多くは本当に幼稚です。今日本が直面している人口の激減は、誰がどう考えても、明治維新よりはるかに大変な事態で、対処の仕方を間違えれば日本経済に致命的なダメージを与えかねない一大事です。 それほど大変な状況に直面しているというのに、日本での議論はなんとも「のんき」で、危機感を覚えているようにはまったく思えません。こういう議論を聞いていると、正直、どうかしているのではないかとすら思います。
「のんきな議論」は、日本社会のありとあらゆる場面で見ることができます。


  のんきな「競争力」の議論


 先日あるところで、最低賃金を引き上げる重要性を訴えていたところ、「最低賃金を引き上げると日本の国際競争力が低下するからダメだ」と言われました。ちょっと考えるだけで、この指摘がいかに浅いかわかります。
 日本の対GDP比輸出比率ランキングは世界133位です。輸出小国ですから、限られた分野以外では、別に国際的に激しい競争などしていません。また、他の先進国の最低賃金はすでに日本の1.5倍くらいですから、同程度に引き上げたとして、なぜ国際競争力で負けるかわかりません。さらに、多くの労働者が最低賃金で働いている業種は宿泊や流通などサービス業ですので、輸出とはあまり関係がありません。いかにも議論が軽いのです。


 のんきな「教育」の議論

 教育についての議論も、実にのんきです。教育の対象を子どもから社会人に大胆に変更しなくてはいけないのに、日本の大学はいまだに、毎年数が少なくなる子どもの奪い合いに熱中しています。 教育の無償化に関しても同様の印象を感じます。「子どもを育てるコストが高い。だから子どもを産まない、つまり少子化が進んでしまっている。ならば、教育のコストを無償にすれば、少子化は止められる」。おそらくこんなことを考えて、教育の無償化に突き進んでいるのでしょう。確かに、この理屈はもっともらしく聞こえなくもありません。 しかし、これは小手先の対症療法的な政策にすぎません。教育のコストが高いのが問題だから、無償化するという考え方も可能ではありますが、そもそもなぜ教育のコストを高いと感じる人が多いのか。その原因を考えれば、「収入が足りていない」という根本的な原因を探り出すことができます。


 教育の無償化と、国民の収入アップ。どちらを先に進めるべきか、答えは収入アップに決まっています。要するに、少子化問題の本質は教育費にあるのか、親の収入が足りないのかを、きちんと見極める必要があるのです。 事実、日本人の給料は、同程度の生産性を上げている他の先進国の7割程度です(購買力調整済み)。なおかつ長年、若い人を中心に減少の一途をたどっています。問題の本質は教育費ではなく、給料なのです。


 先進国の中では、少子化と生産性との間にかなり強い相関関係があるという研究があります。生産性が低く少子化が進んでいる複数の国で、教育費の補助を出しても思い通りには出生率が上がらなかったという興味深い事実もあります。 ですから、教育費を無償にしても本質的な対処にはなりませんし、税金か借金でまかなうしかないので、結局経済に悪影響を及ぼすのです。


  のんきな「輸出」の議論


 JETROの輸出促進とクールジャパンも同じです。問題の本質が分析できていないと思います。 私の分析では、日本が輸出小国である最大の理由は、規模が小さい企業が多すぎて、たとえすばらしい商品があったとしても、輸出するためのノウハウや人材が欠けている会社が大半だからです。 すなわち、輸出のためのインフラが弱すぎるのです(「ものづくり大国」日本の輸出が少なすぎる理由)。「日本にはいい商品はあるが、輸出は進んでいない。輸出をすれば国が栄えるから、輸出を応援しよう」。おそらくJETROが設立された背景には、こんな思考回路があったように思います。 しかし、思惑通りには輸出は増えませんでした。なぜかというと、JETROの応援なしに、持続的に輸出ができる規模の企業があまりにも少ないからです。日本の産業構造が輸出できる体制になっていない以上、いくら補助金を出して、輸出できない企業が一時的に輸出できる形を作っても、継続的に輸出が増えるはずもないのです。


 まだまだある日本の「のんき」な議論  のんきな「先端技術」信仰


 最先端技術も同じです。去年、落合陽一さんの本を読みました。最先端技術に関しては、氏の主張に異論を唱えるつもりはありません。
しかし、落合さんの主張を見ていると、日本の産業構造自体に技術普及を阻む問題があることに言及していらっしゃらないことが気になります。
あまりにも規模の小さい企業が多すぎて、技術の普及が進まないだけではありません。残念ながら日本では、せっかくの最先端技術を活用する気も、活用するインセンティブも持たない企業が大半なので、落合さんの英知が幅広く役立てられることもないように思います。


 経済産業省のやっていることも輸出の発想と同じです。最新技術を導入すれば、経済は伸びる。しかし、実際には技術はなかなか普及しない。小さい企業は最先端技術を導入するお金がない。「ならば!」ということで、技術導入のための補助金を出す。 これもまた対症療法です。なぜなら、大半の企業は規模があまりにも小さくて、その技術を活用するための規模もなければ、使える人材も、わかる人材もいません。先週の「日本人の『教育改革論』がいつも的外れなワケ」のように、社員教育が著しく少ないことも影響しています。


 のんきな「生産性」の議論


 先日、厚生労働省と打ち合わせをしたときに、最低賃金を上げるのに備えて、その負担を軽減するために、企業に生産性を向上させるための努力を促す目的で補助金が用意されたという話を聞きました。しかし、せっかくの補助金なのに、申請された金額は用意された金額の半分以下だったそうです。やはり、小さい企業は現状のままでいいという思いが強く、生産性向上など考えていないようです。


 経産省も厚労省もまったく思慮が足りていません。分析が浅すぎるのです。 決して公言はしないでしょうが、経産省は「日本企業は、お金さえあれば最先端技術を導入したいと思っている」という前提に立っているようですが、これは事実と反します。何度も言いますが、そもそも日本企業は規模が小さいので、仮に最先端技術を導入したとしても、十分に活用できるとは思えません。 厚労省は、「最低賃金の引き上げの影響を受ける企業は当然、生産性を向上したがる」と思っているようですが、この仮説も根本的に間違っています。


 最低賃金で働いている人の割合が高い企業は、そもそもまともな経営がされていないか、または根本的に存続意義がないに等しい会社が多いので、自ら生産性を向上させようなどという殊勝な考えなど持ち合わせていません。補助金以前の問題です。 そういった企業は、声高に訴えれば政府が守ってくれるとわかっていますので、生産性向上という「余計」な仕事をするインセンティブはないのです。


 のんきな「財政政策」と「金融政策」 のんきな「財政」の議論


 財政の議論も浅いと思います。消費税の引き上げも対症療法でしかありません。 ご存じのように、日本は人口が多く、人材評価も高い割にGDPが少ないです。一方、社会保障の負担が大変重くなっています。そこで、年金の支給を減らしたり、医療費の自己負担を増やして、国の負担を減らすべきだという議論も交わされています。政府は消費税を上げて、税収を増やそうとしています。 しかし、私に言わせれば、この2つの方法は、夢のない、いかにも日本的な現実論にすぎません。この政策は、将来の負担をまかなうために、現状の日本経済が生み出している所得に何%のどういった税金をかけたら計算が合うか、という形で議論されています。あたかも、税率以外の他の変数は変えることができないという前提が置かれている印象です。


 先述した通り、日本の財政の問題は支出の問題でもなければ、税率の問題でもありません。日本の財政の根本的な問題は、課税所得があまりにも少ないことに尽きます。しかし日本の議論では、「所得は増やすことができる」という事実があまりにも軽視されています。
 消費税は上げるべきかもしれませんが、その前に付加価値を高め、その分だけ給料を上げて、上げた分の一部を税金として徴収すれば、それだけでかなりの規模の税収アップになります。


 のんきな「量的緩和」の議論


 経済学の教科書には、いくつかの「インフレの原因」が列挙されています。モノとサービスの需要が相対的に増えること、通貨供給量の増加、円安、財政出動は典型的なインフレ要因です。賃金が増えることも、大きな要因の1つです。
 経済の状況が通常通りならば、財政出動と円安誘導と金融政策で経済は回復します。いわゆる、「インフレは日本を救う」論理です。 しかし、この議論には大きな盲点があります。それは、日本のように給料が減って、人口も減り、消費意欲が低下する高齢化社会では、需要が構造的に減るということです。もはや「通常」の状態ではありません。


 このような状況で、中小企業問題や給料が少なすぎる問題を無視し、金融緩和や円安政策を進めても、通常の効果は出ません(もちろん、やらないよりはマシでしょうが)。給料を徹底的に上げていかないと、金融政策や財政だけでは通常の効果は期待できないのです。 「インフレは日本を救う」というだけの議論は、問題の本質を見極めていない議論です。企業の規模と給料には強い関係がありますから、企業規模を拡大し、給料を高めて初めて、金融政策・財政政策が生きてくるのです。


 あらゆる問題は「給料が少ない」ことに帰する


 デフレ、輸出小国にとどまっている問題、年金問題、医療費問題、消費税、少子化、国の借金、女性活躍問題、格差の問題、技術の普及が進まない問題、ワーキングプア、子どもの貧困、などなど。これらの問題の根源にあるのは、すべて日本人がもらっている給料が少なすぎることです。


 今の政策は、ほぼすべてがただの対症療法です。問題の本質が見えていない。それでは病気そのものを完治させることはできません。
では、どうするべきか。『日本人の勝算』にも書きましたし、本連載でも述べましたが、やるべきことは明確です。世界第4位と評価されている優秀な人材を使って、先進国最低、世界第28位の生産性を上げればいいのです。それだけです。それには、賃金を継続的に上げる必要があります。
このことを、大半の日本企業の経営者が理解しているとは思えませんし、自ら賃金を上げる気のない経営者が多いのも間違いないので、彼らの奮起を期待してもムダです。だとしたら、「High road capitalism」に移行させるために、最低賃金を毎年5%ずつ上げて、彼らに強制的に生産性を引き上げさせるしか方法は残されていません。 それにあわせて、労働者を集約し、企業の規模拡大を促進するべきです。たとえ給料を上げても、企業の規模拡大を追求しない、もしくは小さな企業を守ろうとする政策を実施してしまえば、政策が矛盾し、「High road capitalism」は夢と終わります。
 生産性の向上ができない経営者は、増える一方の社会保障負担を捻出するだけの才能がないのです。潔く企業経営から撤退してもらいましょう。人手不足は当分続くので、労働者は才能のある経営者のところに行けばいいのです。


 最低賃金の引き上げの話を出すと、必ず昨年の韓国で起きたバカげた失敗事例を引き合いに出す人が現れますが、韓国は一気に16.4%も引き上げたから失敗したのです。このことは、すでに何回も指摘しています。だからこそ、日本は毎年5%でいいのです。
また、最低賃金を引き上げると、中小企業は皆つぶれるという意見も必ず寄せられます。しかし、そういう意見を持つこと自体、頭を使っていない証拠だと思います。 すべての中小企業の労働者が最低賃金で働いているわけでもなければ、すべての企業の経営がギリギリなわけでもないので、最低賃金を引き上げたからといって、中小企業が大量に倒産することはありえません。


 日本人労働者の生産性は、イギリス人などのヨーロッパの人々とそれほど大きく違いません。しかし、最低賃金はたったの7割に抑えられているのです。
 人材評価が大手先進国トップの日本は、それを武器に、大手先進国トップクラスの賃金をもらい、再び経済を成長させる。この挑戦にトライするしか、日本に道は残されていません。 それには、中小企業を集約させること。ここに「日本人の勝算」があります。

  


   東洋経済オンラインより転載
  https://toyokeizai.net/articles/-/275028?page=6 


   2019-4-6








  「最低賃金引き上げ=中小企業倒産」の図式が神話に過ぎない理由


            

 ここで2013年に最賃を1000円に上げるように書いていて、2015年には1500円に改定しました。2019年の昨日あたりに報道では1000円をつける地域が実現したようです。

 韓国ともめていますが、最低賃金の議論をするときに、今度は文大統領が実施した韓国での最賃値上げの効用を日本の議論のなかに持ち込まれることになりそうです。法治国家でもない隣国のことはどうでもよいのですが、最賃に反対する人々は必ずまな板の上にあげるでしょうから、考えておかねばなりません。 イギリスでこれを研究検討されたレポ−トのオリジナルといっても翻訳されたものでしか取り込めない小生ですが、見つかればここに取り上げたいと思います。




  増税後の買い物、お得になる払い方

  最低賃金引き上げの議論で必ず出る「中小企業の倒産誘発論」だが、実はどこにもエビデンスはない 
最低賃金引き上げを巡る論争が本格化し、様々な意見が飛び交っている。相変わらず「中小企業の経営が厳しくなる」と難色を示す人も多いが、実はイギリスでは最低賃金を引き上げても廃業率は上がらず、むしろ労働生産性が上がったとする調査結果が明らかになっている。(ノンフィクションライター 窪田順生)


 最低賃金労働者は「無能」なのか?


 いよいよ「最低賃金引き上げ」を巡る論争が本格化してきた。
 さまざまな専門家の方がそれぞれの立場で意見をぶつけ合うということは、社会にとっても良いことなので、ぜひ侃々諤々でやっていただきたいところだが、頭の上をビュンビュンと飛び交う意見の中には、思わず二度見してしまうようなダイナミックなものも散見される。
 例えば、“最低賃金引き上げ慎重派”の、とある著名な評論家の方。ざっくりまとめると、こんなことをおっしゃっていたのだ。
 最低賃金で働いている人というのは、スキルが低いので一度職を失うと再就職ができない。最低賃金を上げることは結果として、こういう人を苦しめることになる。だから、最低賃金を引き上げて中小企業を倒産させるような愚かなことはするな、生産性向上のためには、低スキル労働者の教育に力を入れるべきだ――。
「ん?」と引っかかった人も多いのではないか。そう、確か日本は「深刻な人手不足」だったはずなのだ。コンビニはバイト確保ができず24時間営業もままならない。物流も深刻なドライバー不足で現場が疲弊している。建築や介護の現場にいたっては、外国人労働者に頼らないと回らない――という話になっていなかったか。
 一方、平成27年の内閣府の資料には「最低賃金程度の時給で働く労働者は300万〜500万人程度」とあり、もっと多いという指摘もある。
 つまり、この専門家の方は、日本人労働者の数%を「人手不足でもう限界だ!」と悲鳴を上げる事業者でさえも採用を見送るほど、「使えない人材」だとおっしゃっているのだ。
 そんな考えをベースにして、最低賃金の引き上げは慎重にすべきと主張するというのは、中小企業はどこにも行くあてのない無能の人を雇ってあげている篤志家なんだから、「時給1000円」なんて無理難題を押し付けず、自分たちのペースでのんびりやらせてやれよ、と言わんばかりなのだ。
 もちろん、立派な専門家センセイなので当然、我々素人には計り知れない深いお考えがあるのかもしれないが、素直に受け取れば「労働者ディスり」にしか聞こえない。なかなかシビれる発言ではある。


 最低賃金引き上げは中小企業倒産につながらない


 その一方で、ダイナミックというよりも、日本人にはなかなか受け入れがたいショッキングな提言をしている御仁もいる。
 元ゴールドマン・サックスのアナリストで、山本七平賞受賞の「新・観光立国論」(東洋経済新報社)などで政府の観光推進政策にも多大な影響を与えてきたデービッド・アトキンソン氏である。
 来日から30年にわたって日本経済を分析し、かつて日本の大手銀行が17もあって群雄割拠していたバブル期に、「日本の主要銀行は2〜4行しか必要ない」というレポートを出したこともある「慧眼」で知られているアトキンソン氏は、今の日本の低成長・低生産性を解決するには、最低賃金を年5%程度引き上げていくべきだとかねてから主張していたのだが、このたび発売された新著「国運の分岐点 中小企業改革で再び輝くか、中国の属国になるか」(講談社+α新書)でさらに驚くべき分析をしているのだ。
 日本の現在の低成長は、国が“成長できない小さな企業”を手厚く保護する政策をスタートさせた「1964年体制」にあるとして、この古い体制を改革しないで放置していると、人口減少と自然災害というリスクの中で、日本経済が弱体化して、中国資本の支配力が強まっていくというのだ。
 このあたりについて興味のある方はぜひ本をお読みいただくとして、実は同書の中には、現在の「最低賃金引き上げ」を巡る議論に一石投じるような記述があるのでご紹介したい。
 それは、冒頭の専門家の方の主張にも通じるが、「最低賃金を引き上げたら倒産が増加して不況になる」という言説に対してものだ。以下に少し長いが、引用しよう。
「この20年間、最低賃金を引き上げ続けてきたイギリスでは、政府が大学に依頼して、賃金引き上げの影響を詳しく分析をしています。具体的には、最低賃金もしくはそれに近い賃金で雇用している割合の高い企業を対象にして、最低賃金を引き上げる前と、後の決算書を継続的に分析しているのです。そこで判明しているのは、もっとも影響を受けた企業群でも廃業率が上昇することはなく、単価を引き上げることもあまりなく、雇用を減らすこともなかったということです。そしてここがきわめて大事なポイントですが、経営の工夫と社員のモチベーション向上によって、労働生産性が上がったことが確認されているのです」(P.193)
 要するに、「最低賃金を引き上げたら倒産が増加して不況になる」というこの手の議論で必ず出てくる言説は、科学的根拠のないデマだというのだ。


 最低賃金引き上げに猛反発する日本の産業界


 と聞くと、「イギリスは日本より格差が開いて、物価高で貧しい人が増えているぞ!そんな英政府の調査など信用できるか!」と噛み付く人もいるが、アトキンソン氏は別にイギリスが素晴らしいから日本も真似しろなどと言っているわけではなく、最低賃金引き上げの影響について国家レベルで調査が行われ、そこでは倒産につながらず、労働生産性が向上するという結果が出ている、と示しているだけにすぎない。「イギリスの貧しい人は日本より貧乏だぞ」みたいな感覚ベースの議論ではなく、科学的な議論をすべきだと言っているのだ。
 また、イギリスにおける格差や貧困が問題だというが、実は貧困率は日本の方がアメリカと並んで先進国で最悪レベルで、イギリスよりもダントツに高い。格差や貧困がある国のエビデンスなんて信用できるか、という話になるのなら、先進国の中で唯一成長しておらず、ダントツに生産性が低く、ダントツに貧困率の高い日本で生まれた経済理論などすべて価値のないゴミになってしまう。国の経済と、そこで得られたエビデンスは切り分けて考えるべきなのだ。
 もちろん、この話も人によって受け取り方はさまざまだが、個人的には腹落ちしている。「最低賃金を引き上げたら倒産が増えて不況になる」という話には以前から胡散臭さがプンプン漂っているからだ。
 例えば、今から12年前の2007年12月、改正最低賃金法が成立した。最低賃金が生活保護の受給額を下回るということが問題となって、さすがに生活保護よりは高くなるように徐々に引き上げていきましょうや、という話になったわけだが、中小企業は「それは我々に死ねということか!」と大ブーイング。当時の日経産業新聞(07年12月3日)には以下のような悲痛な声が紹介された。
「給与水準を人為的に底上げすることになり、雇用維持が難しくなる」
「採用した人材は一人前の戦力になるまでどうしても時間がかかる。最低賃金の引き上げは企業の雇用意欲を低下させる」


 日本でも最低賃金引き上げは倒産に結びつかなかった


 要するに、働く人たちの賃金が生活保護を下回ることよりも、「中小企業が雇用できる」ことの方が大事というのだ。なんとも釈然としないものを感じていた8ヵ月後、今度は中央最低賃金審議会が、時給687円の全国平均額を15円程度引き上げることを決定すると、さらにヒステリックな声が上がった。
 日本経済新聞(08年8月6日)の「中小・零細、雇用に重し」という記事には、中小企業経営者たちの声が紹介されている。
「中小企業の倒産を誘発し、雇用に悪影響が出る可能性が高い」
「賃上げが心理的な経営圧迫につながる」
 だが、事実はまったく逆だった。中小企業の倒産件数は08年の1万5646件から減少が続き、17年は8405件というレベルにまでなった。いや、倒産は減ったが、休廃業が増えているという人もいるが、別に顕著に増えているわけではなく、多くは後継者不足や販売不振が原因である。
 日本においても、「最低賃金を引き上げたら倒産が増加して不況になる」ことを証明する客観的事実はどこにもない。つまり、「神話」や「思い込み」の類である可能性が高いのだ。
 いずれにせよ、このアトキンソン氏が投じた問題提起に対して、「そんな話は日本に当てはまらん!」なんて島国根性丸出しで耳をふさいでいるだけでは、日本はデフレ・低成長からはいつまでも脱却できない気がする。この30年ひたすら続けてきた「日本のやり方」を続けているだけだからだ。
 最低賃金を引き上げたら倒産が続出する。最低賃金で働く人はスキルがないので、一度職を失うと失業したままだ。このような主張をされる専門家の皆さんは是非とも、感覚的な話で我々素人の恐怖心を煽るのではなく、科学的根拠を示して、建設的な議論をお願いしたい。
    窪田順生さんより転載   2019/09/26 06:00


   2019-10-14




  賃上げた韓国崩壊していない

   最低賃金引き上げ「よくある誤解」をぶった斬る アトキンソン氏「徹底的にエビデンスを見よ」
         

 https://www.msn.com/ja-jp/money/news/最低賃金引き上げ%ef%bd%a2よくある誤解%ef%bd%a3をぶった斬る-アトキンソン氏%ef%bd%a2徹底的にエビデンスを見よ%ef%bd%a3/ar-AAIu6OD?ocid=spartanntp







  日本経済が「コロナ危機」にこれほど弱い根因
スペイン、イタリアと共通する「脆弱性」とは


危機への強さは「産業構造」に依存する

新型コロナウイルスの問題には、2つの側面があります。医療と経済です。医療面のことは私の専門ではありませんので、本稿では経済の側面からのみ、この問題を解説していきます。

『日本企業の勝算』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら。楽天サイトの紙版はこちら、電子版はこちら)
日本政府の対応を見ていると、日本経済の体力に大きな懸念を覚えます。日本は経済をどこまで守れるか、大変心もとない状況なのです。
前回の記事「コロナで露呈した『日本経済の脆弱性』の根因」では、小規模事業者が多くなるほど、有事の際に負のスパイラルに陥りやすいことを説明しました。
小規模事業者は生産性が低く余裕がないため、有事の際に持ちこたえる力にはどうしても乏しくなります。すると必然的に、小規模事業者で働く労働者の比率が高い国ほど、コロナウイルスによる影響は大きくなってしまいます。
そもそも日本には小規模事業者が異常に多く、国全体の生産性を大きく低下させています。その結果、国の財政が弱体化してしまっているので、コロナウイルスの影響で今以上に負担が大きくなっても、財政出動は難しくなります。

これが日本の偽らざる実態です。日本政府はまだロックダウンには踏み切っていませんが、すでに緊急事態宣言が発せられ、多くの事業者が休業を要請されています。しかしながら、要請に応えて休業に踏み切った事業者に対しても、国としての休業補償はしないという姿勢を維持しています。
休業補償のほか、国民生活の保障に対し政府が後ろ向きである最大の理由は、日本の財政が世界最悪の状態にあるからにほかなりません。


スペイン、イタリアも産業構造が脆弱

このように財政が極めて厳しい状態に追い込まれてしまっているのは、日本だけではありません。スペインとイタリアも日本と同様に、危機的状況に直面しています。
ご存じのように、この両国は欧州の中でも突出してコロナウイルスの感染者が多く、多数の方々が亡くなってしまいました。その理由の1つは、スペインとイタリアは財政が弱く、コロナ蔓延以前から医療への投資を削らざるをえなかったので、医療崩壊が深刻化して救える命を救うことができなかったと言われています。
たしかにこの両国は財政が極めて弱く、EUに支援を強く求めています。EUとしてコロナ債を発行するべきと訴えていますが、ドイツやオランダなどが反対しています。賛成している国と反対している国を見ると、賛成しているのは生産性が低く財政が弱い国で、反対しているのは生産性が高く財政が強い国という特徴が見られます。
そして、その生産性の弱さの原因は「小規模事業者の多さにある」とされています。
スペインとイタリアの生産性は、それぞれ世界第30位と第33位です。このように低いランキングになっている状況は「スペイン病」や「イタリア病」と揶揄されています。
欧米の学会で発表された複数の論文で、小規模事業者を中心とする中小企業が全企業に占める割合が大きすぎ、企業の平均規模が小さいことが、この低い生産性の原因であるとハッキリ指摘されています。ドイツやフランスと比べてみると、その違いは明らかです。

仮に同規模の企業の生産性が各国で同じだとしても、小規模事業者の生産性は大企業の半分強程度でしかないため、小規模事業者の比率が大きくなればなるほど、国全体の生産性は当然下がります。
このような問題を抱えている国は、日本、スペイン、イタリアだけではありません。韓国、イギリス、ニュージーランド、ギリシャなどがそうです。これらの国の頭文字を並べるとSINKING、つまり「沈む」国となります。

各国とも多少の違いはありますが、小規模事業者が多いという共通点があります。それが原因で生産性は低迷し、女性の活躍は進まず、貧困率が上昇し、GINI指数で見た格差が拡大し、財政も悪化、さらには少子化も進行するという諸問題を抱えています(参考:コロナで露呈した「日本経済の脆弱性」の根因)。

中小企業が非常に多く生産性が低い国の中で、唯一財政が強いのは韓国ですが、いくつかのショックを受けて、次第に財政が悪化しています。


SINKING国はコロナショックに対抗する余力が少ない

私は、日本の人的資源が世界的に非常に高く評価されているにもかかわらず、なぜ生産性が極めて低いのかという謎の答えを、30年間ずっと探し続けてきました。

数字で見ると、2018年の国際競争力ランキングの評価では、日本は世界第5位です(世界経済フォーラムの調査、以下同)。しかし、生産性は世界第28位です。
スペインとイタリアの生産性は第30位と第33位です。一方、国際競争力では第26位と第31位です。ギリシャの生産性は世界第50位で、国際競争力は第57位です。生産性と国際競争力は、おおよそ一致しています。
世界経済フォーラムの発表によると、国際競争力ランキングとその国の所得の中央値との間には、相関係数0.82という極めて強い相関関係があると分析しています。
一方、日本、イギリス、韓国、ニュージーランドは、国際競争力ランキングと生産性の順位が大きく食い違ってしまっています。
イギリスは国際競争力ランキングでは第8位ですが、生産性は第26位で、日本と同様に2つのランキングが大きく食い違っています。
日本もイギリスも、国際競争力ランキングはスペインやイタリアより圧倒的に高いのに、生産性が同程度に低くなっています。ということは、生産性を低下させる何か決定的な類似点が存在していることが示唆されます。

その「類似点」こそ、産業構造の歪みです。何度も指摘しているとおり、日本は小さい企業が圧倒的に多いという歪みを抱えています。
イギリスのデータを見ると、労働者が大企業と小規模事業者に集中しており、中堅企業が少ないことがわかります。この産業構造の歪みが、生産性が低い原因となっています。

長期になればなるほど「財政出動」が必要になる
コロナウイルスとの戦いが短期戦ならば、各国の財政は問題にならないかもしれません。しかし長期戦になれば、どこまで企業と雇用を守ることができるかは、最終的にはどこまで財政出動ができるかにかかっています。

上の画像をクリックすると、「コロナショック」が波及する経済・社会・政治の動きを多面的にリポートした記事の一覧にジャンプします
余裕がない小規模事業者が多ければ多いほど、支援を求める企業と労働者が増えるため、その国の負担は重くなります。反面、小規模事業者が多い国ほど生産性が低くなり、財政は弱くなります。つまり、国の負担が重い国ほど、それに対応するお金が少なくなるのです。
そして日本は小規模事業者が極めて多く、財政が脆弱な国の代表格です。コロナ問題が長期化すれば、どこまで小規模事業者を守るのか、苦渋の決断を下さなければならない日が近づくのです。


    2020-4-23








    日本の最低賃金「メキシコ並み」OECD25位の衝撃

           給料安すぎ問題の根因「最低賃金」を上げよ


最低賃金の重要性が高まっているわけ

先週の記事(日本の労働生産性は「韓国以下」世界34位の衝撃)では、2019年の世界の労働生産性ランキングを紹介しました。日本は前年よりさらに順位を下げ、世界34位という、目を覆いたくなるような低い順位でした。経済学の基本ですが、日本の労働生産性が低い原因の1つは、最低賃金が低いことです。実は、日本の最低賃金の水準は、メキシコとあまり変わらないのです。


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近年、世界的に最低賃金の重要性が再認識されています。その理由は、経済の中心がサービス業に移り、労働市場の規制緩和も進んでいるからです。どういうことか、説明していきましょう。

国が発展し先進国になると、製造業を中心とした経済から、次第にサービス業を中心とした経済に移行します。また、生産性を高めるためにさまざまな国で労働市場の規制緩和を行っています。もちろん日本も例外ではありません。

このようにサービス業を主体とした産業構造になったり、労働市場の規制緩和が進んだりすると、企業の交渉力が強くなり、労働者の立場が弱くなることが専門家の研究で確認されています。


労使のパワーバランスが雇用側有利に傾く現象は「モノプソニー」と言われています。

モノプソニーの力が働いていると、交渉力の特に弱い低学歴の人、65歳以上の高齢者、若年層、女性、外国人労働者は、それぞれが発揮している生産性に比べ、不当に安い給料しかもらえなくなります。

そうなると、本来払うべきだった給料との差額分だけ企業の利益が多くなるので、モノプソニーの力を使って利益を上げようとする、経済合理性の低い小さい企業が次から次へと生まれることになります。

しかし、モノプソニーによって企業経営者が得るメリットより、労働者が被るデメリットのほうが大きいので、国全体としては次第に経済が弱体化します。そうならないよう、各国政府はモノプソニーの力をある程度、抑制しようとしています。

モノプソニーの力が効き過ぎないよう制限をかけるのに有効な手段が、「最低賃金」です。近年、先進各国が最低賃金を導入して、段階的に引き上げている理由は、モノプソニーの力を制限するためです。

もちろん、先日の記事にも書いたとおり、最低賃金の導入や引き上げは格差対策でもあります。

交渉力の強い人はモノプソニーの影響をあまり受けない一方で、交渉力の弱い人は安い給料しかもらえなくなるので、格差がどんどん広がってしまうのです。日本はすでに、大手先進国の中ではアメリカに次ぐ第2位の格差大国ですが、そうなってしまった大きな原因がモノプソニーなのです。

最低賃金を適切に引き上げることで、格差は確実に縮小します。逆に言うと、最低賃金は格差の下限になるので、その水準の設定によって、政府が社会全体の「格差の幅」に大きな影響を与えることができるのです。日本では、この点について理解が足りていないように思います。


「日本の最低賃金が低いとは断言できない」という誤解

日本でモノプソニーの力が強くなっている原因の1つは、最低賃金が低いことです。これが「日本人の給料低すぎ問題」を引き起こす大きな原因になっています。

私がこのように主張すると、たまに「日本の最低賃金が低いとは断言できない」と反論してくる人が現れますが、完全な誤解です。どこが誤解か、検証していきましょう。

誤解1:日本の最低賃金はOECDで11位
「日本の最低賃金は、国際比較すると低いとは断言できない」と主張する人は、OECDのデータを使うことが多いです。

OECDは各国の購買力調整済みの最低賃金のデータを公表しています。2018年のデータでは、日本の最低賃金は11位でした。OECD加盟国の加重平均が15位につけていますので、11位というと、それほど低い順位ではないように思われるかもしれません。

しかし、OECDのメンバーの中には、生産性が11万2045ドルの国もあれば、1万6265ドルの国もあります。これほど経済力に開きがある国の最低賃金を絶対値で比較することには、そもそも意味がないのです。

日本は、同じクラスの先進国と比べるべきであって、生産性の非常に低いチリやメキシコより最低賃金が高いことを理由に、「低いとは断言できない」と言われても、ただの屁理屈としか思えません。後ほど説明しますが、主要先進国の中では、アメリカも含めて、日本は実質最下位です。

そもそも最低賃金の高低は、その国の賃金の中央値に対する割合を見て判断するべきで、OECDはこのデータも公表しています。2018年では、日本の最低賃金は中央値の0.42でした。

日本の最低賃金は「29カ国中25位」の低水準
これは、最低賃金制度を導入しているOECDメンバー29カ国中、アメリカとスペインに次いで下から3番目の25位です。ちなみに、賃金の平均値に対する最低賃金の割合は0.36で、29カ国中、下から4番目でした。


誤解2:アメリカの最低賃金はもっと低い

データの中では、最下位のアメリカの数字が際立って低いのが目につきます。このように低い数字になっているのは、アメリカの最低賃金は決め方が少し特殊であるため、実態よりも低い数値が出てしまっているからです。

データにある0.33という数値は、アメリカの賃金の中央値に対する「連邦政府が定める最低賃金」の比率です。アメリカでは、連邦政府の最低賃金を下限に、各州、各市が独自に最低賃金を決めることができます。

連邦政府が定める最低賃金は2009年7月24日以降、7.25ドルで変わっていませんが、2020年1月時点では、29の州とワシントンD.C.の最低賃金が、連邦政府のそれを上回っています。

その結果、最低賃金で働いているアメリカの労働者の約90%は、連邦政府が定める最低賃金より高い賃金で働いています。逆にいうと、連邦政府の定める最低賃金で働いている労働者は、最低賃金で働いている人全体の約10%しかいません。つまり、先ほどの0.33という数値で他の国と比べるのは適切な比較ではないのです。

また、アメリカでは、2020年1月に20の州が最低賃金を引き上げました。ワシントンD.C.やニューヨーク市は15ドル、ワシントン州は13.5ドル、カリフォルニア州は13ドルなど、連邦政府の決めた水準を大幅に上回っています。

2019年5月現在のアメリカ全体の最低賃金は、加重平均で11.80ドル。連邦政府が定める最低賃金の1.6倍にもなっています(出所:The Real Minimum Wage, Vanek-Smith, Stacey; Garcia, Cardiff, May 16, 2019)。

「アメリカの最低賃金はきわめて低い」というのも、実態を見るとやはり誤解であることがわかります。


日本において「最低賃金引き上げ」は急務だ

このように考えていくと、「日本の最低賃金は低すぎる」「日本では最低賃金の引き上げが急務だ」という結論に至ります。だから私はずっと、そのように主張してきました。

GDPは「消費+投資+政府支出+輸出−輸入」と計算されます。このうち最大の項目である消費は、究極的には人間の数と給料の掛け算です。これから人間の数が減るので、消費を守るには、給料を引き上げることが急務です。議論の余地はありません。

「最低賃金が低いことで、日本は高い国際競争力を維持できている。だから最低賃金を上げる必要はない」と言われることがあります。しかし、これは間違っています。日本はGDPに対する輸出の比率が非常に低いだけではなく、そもそも最低賃金で働いている労働者の多くは、飲食・宿泊など、輸出と関係がない内需の業種で働いているからです。

最低賃金を引き上げると、企業の経営者は労働生産性を向上させないといけなくなります。実際、海外では、最低賃金を引き上げると国全体の労働生産性が上がることが確認されています。逆に言うと、経営者が最低賃金の引き上げにこんなに反対するのは、労働生産性を引き上げるという苦労を背負いたくないからでしょう。

この結論には、2つの典型的な反論があります。

1つは「最低賃金を引き上げると倒産が増え、失業者も増えるぞ」というものです。しかし実際には、徹底的な分析とエビデンスをもとに、毎年適切に最低賃金を引き上げると、失業者が増えるどころか、モノプソニーの原理によって失業者は減ることが確認されています(参考:日本人の「給料安すぎ問題」はこの理論で解ける)。「失業者が増えるぞ」という脅しは、モノプソニーによる労働者搾取、平たく言うとボッタクリができなくなることに対する単なる反発にすぎません。

2つめの反論は「お隣の韓国では、最低賃金を上げすぎた結果、倒産が増えて失業率が高まり、大混乱が起きた」というものです。しかしこの反論も、実は最低賃金を引き上げた直後の状況しか見ていない、近視眼的な誤解なのです。

次回以降、この2つの反論のどこが間違っているか、詳しく解説していきます。







日本の労働生産性は「韓国以下」世界34位の衝撃

   最新版「世界ランキング」の凋落が止まらない



世界34位に落ちた日本人の労働生産性

最新の世界銀行のデータによると、2019年の日本の労働生産性は前年より1つランクを落とし、世界第34位でした。目を覆いたくなるような低い順位です。

このランキングは各国の購買力調整後の数字を比較しているので、為替やデフレの影響は調整されています。デフレを言い訳にして、日本の労働生産性が極めて低いという現実から目を背けることは許されません。

驚いたことに、直近の日本の労働生産性は韓国(1991年時点では世界51位)や、トルコ(同47位)、チェコ(同35位)、スロベニア(同33位)といった国にまで抜かれてしまいました。つい最近まで、こと経済に関してはまったく足元にも及ばないと思っていたこれらの国々は、日本を凌ぐ勢いで労働生産性を伸ばしているのです。逆に言うと、日本の労働生産性がそれだけ著しく伸び悩んでいるということです。

労働生産性の低さは、日本経済の最大の問題です。なお日本の労働生産性は、日本経済が絶頂期にあった1991年でも世界26位と決して高くはなかったので、構造的な問題であることが推察できます。

この連載で何回も説明しているように、日本の全体の生産性が世界28位となっている理由は、労働参加率が向上しているからです。毎年毎年、多くの人が、労働生産性が低く、それゆえ給料水準も低い仕事をするために採用されています。

とはいえ、日本の労働生産性もまったく上がっていないわけではありません。実際、1991年以降、現在までに日本の労働生産性は1.2倍に増えています。しかし、世界銀行が定義している高所得国の生産性は、同期間に1.4倍になっているのです。

1991年の日本の労働生産性は高所得国の89.2%でしたが、2019年には75.8%まで下がって、1991年以降の最低水準に落ち込んでいます。


日本人の給料が低迷している原因は結局、生産性が高くなっているにもかかわらず、労働生産性があまり上がっていないからです。


労働生産性を高めるのは経営者の責任だ

日本人の労働生産性が低いという話をすると、「自分はがんばっているのにバカにされた」と怒りを覚える人がいるようですが、経済学的には、労働生産性を高めるのは第一義的に経営者の責任です。また、実際に労働生産性を大きく高めることができるのは、経営者やそれに準ずる経営層だけです。

労働生産性を高めるために労働者1人ひとりができることは、きわめて限られます。なぜなら、労働者自身は通常、機械化を決める権利も、自分がどんな仕事をするかを選ぶ権利もないからです。生産性の低い仕事を機械化したうえで、より生産性の高い仕事に労働者を再配分するという決断は、経営者しか下せないのです。

では、なぜ日本の経営者はこれまで、労働生産性を高めてこられなかったのでしょうか。その根本原因は多かれ少なかれ、政府の経済政策と規制にあります。

日本政府はこれまで、小規模事業者を中心に、成長しない企業も、経済合理性を失った企業も守りすぎていたのです。政府に守られた企業は創意工夫をしなくても存続できてしまうため、経営者は経営を改善したり成長を目指したりするモチベーションを失ってしまいました。その結果、労働生産性の低い企業が蔓延してしまったのです。

要は、意図的ではないにせよ、経営が下手な企業経営者に同情するあまり、多くの国民を低賃金の地獄に叩き込んできたのです。その象徴が「低すぎる最低賃金」であり、拡大し続ける「非正規雇用」であり、途上国からの「外国人労働者」です。

先週の記事にも書いたとおり、MMTによって政府支出を増やしても、それによって比較的容易に生産性を高められるのは完全雇用を達成するまでです。それ以降、政府支出を活かすには、労働生産性を高める政策、産業構造の改善を促進する政策が不可欠です。そうしないと、政府支出を継続しても、ただインフレになるだけです。







日本人の「給料安すぎ問題」の意外すぎる悪影響

     「monopsony」が日本経済の歪みの根本にある


労働力を安く買い叩くと、結局「経営者」も苦しくなる
前回の記事では「新monopsony論」を紹介しました。

モノプソニーの問題は、単に労働者に支払われる給料が不当に安くなるということだけではありません。さまざま論文では、モノプソニーの力が強く働くようなると、国の産業構造に歪みが生じ、生産性が低下し、財政が弱体化するなど、多くの問題が生じると論じられています。

つまり、労働力を安く買い叩くことは、巡り巡って経営者自身の首を絞めることにもつながるのです。

このような状況に陥らないための方策として、「小規模事業者の統廃合」「中堅企業の育成」「最低賃金の引き上げ」が有効であると考えられています。

モノプソニーによって生じる歪みは、大きく16に分けられます。先進国の中で経済規模が第1位のアメリカと、第2位の日本、そして第3位のドイツを分析すると、日本が最も強いモノプソニーの特徴を有していることがわかります。つまり、日本は世界有数の「モノプソニー大国」なのです。

今回は、モノプソニーによる代表的な歪みをご説明していきます。いかに日本が「モノプソニー大国」であるか、ご確認ください。


日本が抱える諸問題の根源にモノプソニーがある

モノプソニーの弊害1:企業の規模が小さくなる

労働市場の効率性が高いと、少しでも高い給料を出せばすぐに労働者が集まってくるので、高い給料を支払える生産性の高い企業に労働者が集中します。生産性の高さと企業の規模との間には強い相関関係があるので、その国、その業種の企業の平均規模は大きくなります。

前回の記事でも説明したとおり、モノプソニーの力が働いている場合、企業は本来支払うべき給料より低い賃金で労働者を雇用しているので、利益を上げやすくなります。この利益を狙って「われもわれも」とたくさんの企業がつくられるため、企業の平均規模が縮小します。

企業の数が増えれば増えるほど、経営者になる人間が増え、経営者の平均的な質は低下します。企業の成長性は経営者の能力を反映しますので、企業の平均規模はさらに小さくなります。すると、大企業と中堅企業で働く人の比率が低くなり、逆に小規模事業者で働く人の比率が高まります。

日本の小規模事業者の生産性は、大企業の41.5%しかないので、小規模事業者が増えるほど国全体の生産性が下がります。

日本企業の平均規模は、アメリカの6割、EUの4分の3ですから、モノプソニーの力が強く働いていると判断できます。


モノプソニーの弊害2:輸出率が低下する

企業が継続的に輸出をするためには、高い生産性が求められます。例外はありますが、高い生産性を実現するには一定の規模が必要です。ドイツの研究によると、輸出をするためには平均して160人前後の規模が必要だそうです。

しかし、モノプソニーの力が働き、企業の平均規模が小さくなると、輸出できる企業が減ってしまいます。事実、日本は輸出総額では世界第4位ですが、対GDP比では世界第160位と、著しく低いランキングに留まっています。「日本は輸出大国」と思い込んでいる人が多いのですが、それは大きな誤解です。


技術力は高いのに「普及しない」わけ

モノプソニーの弊害3:最先端技術の普及が進まない

優秀な人材を安く雇用できると、機械化したり最先端技術を導入したりする動機が低下します。わざわざ最先端技術を導入しなくても、優秀な社員たちに任せておけばなんとかなる……と経営者は考えがちだからです。

また、企業の規模が小さいほど、当然、最先端技術を導入するためのコストを払う余裕が少なくなります。仮に最先端技術を導入したとしても、人材に乏しく、ビジネスの規模も小さいので、十分に活用するのが難しくなります。実際、世界的に見ても、規模の小さい企業ほどAIなどの最先端技術の普及率が低いことが確認できます。

また、商工会議所が2020年3月に実施した調査で、テレワークの導入率は従業員数300人以上の企業の場合57.1%、50人以上300人未満の企業が28.2%、50人未満だと14.4%となっています。規模が大きい企業ほどテレワークが可能なのに規模の小さい企業が多いという、構造的な弊害を確認することができます。

輸出も、研究開発も、社員教育も、規模が小さい企業ほど実現できていない傾向が顕著に見られます。


モノプソニーの弊害4:格差が拡大する

モノプソニーの影響が強くなっても、高学歴の人など、労働市場での交渉力が強い層の所得にはほとんど影響がありません。一方、交渉力の弱い層の賃金は低く抑えられるので、両者の格差は大きくなります。

実際、各国の格差を表すGINI指数で見ると、主要先進国の中で、日本は世界一の格差大国であるアメリカに次いで大きな格差が生じています。


モノプソニーの弊害5:サービス業の生産性が低くなる

さまざまな研究の結果、モノプソニーの力が働きやすい業種と、働きにくい業種があることがわかっています。特に、飲食、宿泊、小売、教育、医療においてモノプソニーの力が強く働くことが、世界的に確認されています。

これらの業種は他国の企業との競争はほとんどないうえ、労働集約型になりやすいという特徴があります。そのため、人を雇用するコストが低いと、ICT技術を活用するインセンティブが働きにくくなり、モノプソニーが強くなるとされています。

これを逆に考えて、その国でモノプソニーの力がどれほど強く働いているかを、これらの業種の生産性で確認することができます。これらの業種の生産性が低いほど、モノプソニーの力が強いとされています。

実際、さきほど挙げた業種が日本全体の生産性の足を引っ張っているのは明らかです。具体的には、日本全体の生産性が546万円なのに対し、生産性が低い順に宿泊・飲食が194万円、教育が207万円、医療・福祉が289万円、サービス業が330万円、生活関連が338万円、小売業が365万円となっています(『中小企業白書?2019年版』より)。


モノプソニーの弊害6:女性活躍が進まない

モノプソニーの力がどれだけ強く働くかは、労使の交渉力の差によって決まります。そのため、モノプソニーの影響は労働者全員に均一に現れるのではなく、特定の属性に偏ると考えられます。

世界中の調査で、モノプソニーの影響をもっとも顕著に受けるのは女性であることが確認されています。特に子育て中の女性は、残業ができない、休みが多くなりやすいなどの理由から、雇用主に対する交渉力が大きく低下するので、モノプソニーの力がより強く働きます。

「新モノプソニー論」では、モノプソニーの力が強く生産性の低い業種に、女性労働者が集まる傾向が見られるとされています。実際に日本もそのとおりになっています。

事実、日本で最低賃金で働いている人の男女比率を見ると、15〜29歳ではほとんど差がありませんが、30代になると急激に女性の比率が高くなります。年齢が上がるとその傾向はさらに顕著になり、40〜49歳の場合、約9割が女性で占められます。

新古典派経済学を信奉している人は、「最低賃金で働かざるをえないのは、スキルが低いのが理由だ。需要と供給の関係で低賃金になるのだから、自己責任だ」と主張しますが、私はこの考え方には大きな違和感を覚えます。

普通に考えれば、30歳を超えた途端に、女性のスキルだけが一気に低下することなどありえません。こんなことは、誰がどういう理屈を並べても、正当化するのは不可能です。交渉力が弱まるために賃金が低くなってしまうというモノプソニーの説明のほうが、何倍も論理的でしょう。


日本でモノプソニーの力が強まった理由

モノプソニーの最大の弊害は、財政の悪化と社会の衰退です。

日本では、モノプソニーの力が強まりやすいサービス業が中心の産業構造になったところに、セーフティーネットの整備もしないで、非正規雇用者を増やすよう規制緩和をしてしまいました。これが、モノプソニーの影響が増大した主因だと分析されています。

この政策が招いたのが、産業構造のさらなる歪みであり、国民の貧困であり、生産性が世界第28位に低迷するという結果なのです。

モノプソニーの力が働くと、企業は本来よりも過剰な利益を稼ぐことになります。しかし、企業に生じるメリットは、労働者が被るマイナス分よりも小さいとされています。結果として、個人消費の減少を招き、国の税収も低減してしまうので、社会全体に大きなダメージが生じるのです。

振り返ってみれば、労働市場を緩和し、非正規雇用を拡大したときが転換点でした。あのとき、企業の力が強くなりすぎないように、同時に最低賃金を引き上げる政策を打たなかったのが、決定的なミスだったのです。

今回のコロナとは関係なく、日本の中長期的な将来を考えれば、企業の統廃合を進め、ドイツのように中堅企業と大企業で働く労働人口の比率を高めることが求められます。このようにモノプソニーの力を抑える産業構造を実現するためには、継続的な最低賃金引き上げが必要なのです。

最低賃金を段階的に引き上げて、モノプソニーによって生じている歪みを修正するしか、国民生活の回復はないと思います。







コロナ禍で終わる「日本人の異常な安売り信仰」
  
     「良いものを安く」では危機への備えは不可能


「良いものを安く=妄言」だったことが露呈する
新型コロナウィルスの蔓延で、予断の許さない状況が続いています。しかし、脅威はいつか終わりますので、今回のコロナ禍も、いずれ終息する日を迎えます。

私は、コロナ禍が終息し冷静になったとき、日本人の意識が大きく変わると思っています。しかし、それは「最先端技術の導入が進む」など、一般的に言われていることではありません。

私が予測するのは、多くの人が「低価格で商品やサービスを提供することが、社会的善だ」という日本の常識が「妄想」にすぎなかったことを、ハッキリと認識するだろうということです。

これまで日本では、多くの企業がコスト削減を経営戦略の中核に据えて、1円でも安く、1人でも多くの人に商品やサービスを提供することを目指してきました。その代表例が「ワンコインランチ」です。

利益がほとんど出ない、ギリギリで生活ができる程度にまで価格を下げることが、社会のためであると思われてきました。これが、経済大国・日本が誇る「高品質・低価格」商法というものです。しかし、今回のコロナ危機で、この考え方の危険性が表面化しています。

当然ですが、高品質・低価格の戦略を実行している企業の生産性は低くなります。企業の生産性は「付加価値総額÷従業員数」と計算されるからです。付加価値総額は、大雑把に言うと売上から外部に払うコストを差し引いた金額なので、どうしても売上、すなわち単価が影響します。


日本の国際競争力ランキングは世界でも第5位です。このランキングには、提供している商品やサービスの質の高さが反映されています。一方で、価格が不適切に安価に設定されているため、生産性は世界第28位に留まってしまっています。


「高品質・低価格」戦略が間違っている4つの理由

私は、以前から「高品質・低価格」の経営戦略が根本的に間違いであると訴えてきました。その理由は4つあります。


1:薄利多売ができなくなった
まず、高品質・低価格戦略の前提に薄利多売があること、これが問題です。

「多売」が成立するためには、究極的には需要すなわち人口が増加する必要があります。確かに昔の日本では人口が急増していたので、この戦略にも合理性はありました。

しかし、今、日本はすでに人口減少時代に突入しています。あたりまえですが、消費者が減っているので、今後の日本では多売は成立しにくくなっているのです。

2:社会インフラの維持コストを負担できない
次に、高品質・低価格は、社会インフラを無視した戦略である点が問題です。

道路、電気、防衛などの社会インフラのコストは、人口が減ったからといって、それに比例して減るわけではありません。さらに、生産年齢人口と子どもの数は減っても、高齢者の数は減らないことが予想されているので、年金と医療のコストはむしろ増大するとされています。

ということは、納税者1人ひとりが負わねばならない社会インフラのコストは、毎年増えることになります。事実、労働時間1時間あたりの社会保障負担額を生産年齢人口で割ると、2020年現在では824円ですが、これが2060年には2150円にまで増える計算になるのです。


いまだに薄利多売戦略を良しとしている経営者は、このような社会コストの増加を完全に無視していると言わざるをえません。単体の企業としては、薄利多売戦略でも収支がトントンであれば、問題はないように思われます。しかし、社会インフラのコストまで計算に入れると赤字になっているのです。

これは経営者の質の問題です。諸外国でも、企業の規模が小さくなればなるほど(1)生産性を測定していない、(2)生産性を測定する時間がない、(3)社会にとっても、自分の会社にとっても、生産性の意味・重要性を理解していない、ということが確認されています。

個々の企業の薄利多売戦略のコストを負担しているのは、結局は日本全体です。法人税も消費税も減ります。生産性が低いので、社員の給料も低水準で所得税も低くなります。給料が低ければ消費が減り、それがまた税収に影響をあたえ……負のサイクルが回り続けます。

政府が社会インフラを充実させるほど、支出と収入のバランスが悪くなり、国の借金が増える結果になります。社会インフラのコストを勘案した薄利多売戦略の赤字は、政府が間接的に補填しているのです。

私は最低賃金の引き上げを主張し続けていますが、その究極的な理由は、こういった実質赤字を出している企業の薄利多売戦略を律することです。

3:平時を前提としている

「高品質・低価格」の経営はギリギリなので、利益率が低く、売上が少しでも減るとすぐに赤字に陥ります。また、今までの利益が少なかったので、当然蓄えも少ないはずです。金融機関もなかなか貸してくれないでしょう。高品質・低価格戦略を実践している企業は、常に平時を前提としていると言えます。

さらに言えば、そもそも高品質・低価格という戦略は、「有事への備え」というコストを有事のときまで先送りしているだけなのです。先送りしたコストは自分では払えず、将来の日本政府、そして国民に転嫁することになります。

有事だから、すべての中小企業を助けるべきだ!」という声に応えて政府が支援をすることは、これまで不合理に安く提供されていた商品やサービスのコストを、政府が負担することになります。

冒頭でも書きましたが、高品質・低価格が「社会的善」であるというのは、平時の妄想です。平時に自慢していた「日本では非常に美味しいランチをワンコインで食べられる」という戯言の請求書は、有事のときに突き付けられるのです。

高齢化が進み、社会保障が充実している欧州先進国の物価がなぜあれほど高いのか、もっと真剣に考えるべきです。


「不健全な企業ほど助けてもらえる」というメッセージ

4:モラルハザードにつながる

今回のコロナ危機で、高品質・低価格はモラルハザードにもつながりかねないことが明らかになりました。

コロナ危機が起きる前までは、主に大企業を中心に、内部留保金を貯め込んできた企業は悪者と見なされてきました。しかし、こういう企業は今回の危機でも、しばらくは支援を求めてこないでしょうし、支援もされないでしょう。有事のときには、健全経営をしてきた企業は倒産する可能性が低いので、支援の対象から外されることが多いのです。

不健全な状態で経営されている企業ほど、利益は少なく資本金も小さいので、有事の際には収入が途絶えて倒産する可能性が高くなります。そこで、「うちが倒産すると失業者が増えるぞ」と訴え、労働者をある意味で人質にして、政府に支援を求めます。

慢性的に赤字を垂れ流し続けてきた企業や、薄利多売で不健全な経営を続けてきた企業を、「弱者を助ける」といって支援し続けることは、政府が「不健全な経営をすればするほど得になる」というメッセージを発信することになります。このメッセ―ジは、逆に言えば「健全な経営をする企業は、平時には税金を払い、有事には支援の対象にならない」という、極めておかしなメッセージです。

どの先進国も多かれ少なかれその傾向はありますが、「中小企業支援」は実質的には「小規模事業者支援」になりがちです。日本の場合、従業員3〜4人の企業が主な支援対象となります。そのため、有事のたびに中堅企業と大企業が負担を課されます。

しかし、中堅企業は日本の雇用の46.5%も占めていますので、本来なら中堅企業をこそ守るべきなのです。

日本の経営者はお金目当てで経営しているわけではないという意見も耳にします。しかしながら、日本の経営者は、経済的にきわめて合理的に行動していることがデータで確認できます。

税金を払っていない企業が増え続けている

たとえば、景気変動と関係なく、日本では税金を納めていない企業の比率はほぼ一本調子で右肩上がりしてきました。これは非常に不自然な現象ですし、資本金を積み増せていないことを意味しますので、産業構造が弱っている証拠だと言えます。

1974年、田中角栄政権時に給与所得控除枠が大幅に引き上げられ、個人事業主の多くがこの税控除を使い、いわゆる「法人成り」したことがその理由と考えられます。家族全員に給料を払ったことにして会社を赤字にし、各々の所得控除を使う。日本ではよく知られた「合法的な節税」対策が横行したのです。

これも日本で小規模事業者が大幅に増加した理由の1つです。会社設立の目的がそもそも節税で、生産性など眼中にないので、どの事業者も生産性を見ると目も当てられません。


日本政府の財政は、有事のたびに悪化しています。今回のコロナ危機は、人口減少・高齢化時代に求められる生産性の目標を設け、全企業にそれを理解させる絶好のチャンスです。最低賃金の引き上げも、その手段として組み込むべきです。

今回、高品質・低価格戦略を実践している、生産性の低い企業を支援するのであれば、事態の終息後に、生産性の向上を約束させるべきでしょう。少なくとも、支援を申請する企業には「自社の生産性」を計測してもらい、申請書に記載させるべきです。計っていないものは上がるはずがないので、とりあえず、計らせたほうがいいです。

「中小企業を無条件に助けるべきだ」という無責任な政策をやめて、より賢い政策が不可欠です。有事のときならば、企業経営者も政府の経済政策を真剣に聞き入れざるをえないからです。









コロナ不況でも「最低賃金引き上げ」は必要だ

    ドイツとイギリスから得られる教訓とは何か



緊急経済対策」も中長期を見据える必要がある
新型コロナウイルスの影響で日本経済は大きな打撃を受けており、経済対策を打つことはすでに決まっています。


今回の議論を見ても、日本企業の脆弱性が目立ちます。中国人観光客の激減により、倒産の危機に瀕している企業もあります。倒産には至らなくともぎりぎりで、余裕のない企業が、観光業以外でも多い印象です。状況が状況なので無理のない面もありますが、日本がもっと強い産業構造を有していればと思わずにはいられません。

このような状況下なので、緊急の経済対策は重要ですが、あくまでも経済政策の中長期的な戦略を踏まえたうえで「賢く」打つべきであることを強調する必要があります。

日本は、人口減少と高齢化に対応するべく、産業構造を強化する必要があります。産業構造の強化とは、簡単に言えば大企業と中堅企業を中心とした経済に誘導することを意味します。今回の緊急経済対策は、小規模事業者を中心とした企業の統廃合を進めて、企業の規模拡大を追求し、生産性を向上させる機会になりえます。この機会を逃してはなりません。

例えば、これまでの「最低賃金引き上げ」の流れを止めるようなことがあってはなりません。全国一律最低賃金に向けて、引き続き東京と地方の最低賃金の格差を縮小させることも必要です。イギリスはリーマンショックの後、「100年ぶりの大不況」と言われていたにもかかわらず、継続的に最低賃金を引き上げてきたのです。


日本企業は「規模」が小さすぎる


日本国内で行われている最低賃金に関する議論を聞いていると、まだまだ十分な理解がされていないことを痛感します。私の説明が足りていなかったのが一因かもしれませんが、海外において数多く発表されている論文の内容が、まったく伝わっていないように感じます。

これまでの読者の反応を振り返って考えてみたところ、まだまだ理解されていない点が明確になってきました。説明のための資料も見つかりましたので、今回の記事ではまだご理解いただけていないポイントに焦点を絞って、説明をしていきたいと思います。

今回の記事では、ドイツとイギリスで実施された全国一律の最低賃金導入の事例を検証していきます。その前に共通認識として、論点を整理しておきましょう。

日本はGDP総額が大きく、世界第3位、先進国では世界第2位の経済大国です。この順位だけを見ると、豊かな国のように映ります。しかし、GDP総額が大きいのは人口が多いからで、決して豊かなわけではありません。実際、日本の生産性と所得は非常に低水準で、1人当たりのGDP(=生産性)は世界第28位。大手先進国では最下位です。


生産性が低いと賃金水準も低くなります。購買力調整済みの数値で比べると、日本人の給料は極めて低水準であることが明らかになります。世界一の格差大国であるアメリカは例外ですが、生産性が低くなればなるほど貧困率が高くなるのも世界共通の傾向です。実際、日本の貧困率は先進国中第2位の高さです。

これから日本では生産年齢人口が急減する一方で、高齢者は減りません。このまま何もせずに放っておくと、近い将来、日本は間違いなく先進国の中で1番の貧困大国になります。

人口が減少する中で貧困率を上昇させないようにするには、一人ひとりの賃金を高めるしか方法はありません。そして、賃金を上昇させるためには、生産性を向上させる必要があるのです。

生産性は、経済学の「規模の経済」の鉄則に沿って、企業の規模に比例します。平均的には大企業ほど生産性が高く、規模が小さくなるほど生産性は低くなるのです。これは日本にかぎらず、世界中で認められている「揺るぎない事実」です。

つまり、日本人の賃金を引き上げるということは、企業の平均規模を拡大させることを意味するのです。そのためには、企業を成長させなくてはいけません。しかし日本は人口が減少するので、何もせずに企業規模の拡大を期待しても、無理というものです。人口減少の下、企業の平均規模を大きくするために、日本では中小企業の合併・統合を推し進める方策が不可欠なのです。

2019年の『中小企業白書』では、全国の360万社の企業が2012年から2016年の間にどれほど成長したかを分析しています。それによると、例えば中小企業が中堅企業になるというように区分が変わるほど成長した企業はわずか79万社です。実に281万社は、そこまでの成長を達成できていないのです。

企業の成長がここまで鈍いと、生産性向上は起こりません。生産性向上を実現するには一定の規模が必要ですし、大半の場合、規模の拡大も伴います。

経済政策を考えるにあたって、これら一向に成長しない281万の企業を動かすには、何らかの刺激策が不可欠です。そして、これらの企業の成長を促す刺激策として有効なのが、最低賃金の引き上げなのです。


「最低賃金引き上げは雇用に大打撃」は迷信にすぎない

最低賃金の引き上げの影響に関しては、長年にわたって海外の学会で徹底的な検証が行われてきました。その結果得られたコンセンサスは、「段階的かつ適切に最低賃金を引き上げると、既存の雇用全体への悪影響は出ない。仮に影響が出たとしても、その影響は軽微である」というものです。

このコンセンサスは、最低賃金の引き上げが雇用に与える影響に関する膨大な数の論文の結果をまとめて分析する、「メタ分析」によって導かれています。イギリスの低賃金委員会が研究を依頼し、発表された「The Impact of the National Minimum Wage on Employment: A Meta-Analysis」という論文もその1つです。この論文では、2000件以上の論文の数値を確認して結論を出しています。

日本のアナリストの中には、1つか2つの論文を引っ張り出して「このコンセンサスは最新の研究によって否定されている」と主張する人がいます。もちろん、無理やり「最低賃金の引き上げは雇用への悪影響が大きい」と結論づけている論文を探そうと思えば、まったくないわけではありません。

しかし、メタ分析を行って、コンセンサスに影響を与えない程度の少数意見であれば、それだけを取り上げてコンセンサスに異を唱えるのは、アナリストとしてあるまじき行為です。

1つの論文の結果だけを取り上げて全体のコンセンサスを否定するのは、統計調査の結果、日本人男性の平均身長が171センチだと算出されているのに、「私は190センチの日本人男性をたくさん知っているから、平均身長は171センチではない」と言っているようなものです。

このように客観的なエビデンスではなく、自分の知っているエピソードや事例を引っ張り出して一般化し、議論の根拠に使う人が多いことには、いつも悩まされています。


ドイツでは「全国一律の最低賃金」の影響は軽微

さて、ドイツでは2015年に、全国一律の最低賃金が導入されました。ソ連陣営だった旧東ドイツ地域の経済は、旧西ドイツ地域よりかなり弱かったので、「全国一律の最低賃金を導入すると大変な悪影響が出る」とさんざん騒がれました。失業者が50万〜90万人増えるという予想が発表されたと論文に記載されています。

このような懸念の声にもかかわらず、ドイツ政府は2015年に全国一律最低賃金の導入を断行しました。

その際に設定された最低賃金は、賃金の中央値の48%というかなり高い水準でした。ヨーロッパ諸国の中では、スペインが37%で最下位、オランダが46%、イギリスは49%、トップのフランスは62%です。ちなみに「賃金の中央値の比率に対する最低賃金の比率」のことをKaitz指数と言います。

別の尺度として、1人当たりのGDPに対する最低賃金の水準で比較すると、ドイツは現在47.1%、アメリカは26.2%、日本は36.3%、韓国は47.4%です。

イギリスは最低賃金を1999年に導入した際に、賃金への影響は出ても雇用には影響が出ないように、Kaitz指数を42%の水準に設定しました。この水準は相対的に低かったので、影響を受けた労働者は全体の5.3%にとどまりました。当然ながら、Kaitz指数を高く設定すればするほど影響を受ける労働者の割合は高くなります。ドイツが48%に設定した際には、全労働者の11.3%に影響が出ました。

ドイツに全国一律の最低賃金が導入される前の2014年4月の段階で、新しく設定される最低賃金より賃金が低い労働者の割合は、旧西ドイツ地域では9.3%だったのに対し、旧東ドイツ地域は20.7%でした。男女別では、女性の14.2%の賃金は新しい最低賃金以下で、男性の8.4%を上回っていました。若い人ほど、また企業の規模が小さくなればなるほど、最低賃金より低い賃金で働く人の比率は高くなっていました。

ドイツの場合もイギリスと同様に、全国一律の最低賃金を導入しても、雇用の減少は確認されず、雇用全体への影響は見られませんでした。

この部分は理解されないことが多いのですが、最低賃金導入の影響に関しての議論では、雇用全体への影響は出ないというのがコンセンサスです。一方、影響は小さいながらも、特定の属性の人には影響が出るというコンセンサスも存在します。学者がemployment effectsと言うときに意味しているのは、全体の雇用への影響ではなく、一部の属性の雇用への影響です。「影響」を単純に「失業」と受け止めてはいけません。

最低賃金が導入された結果、ドイツ全体では雇用が1.4%も増加しました。面白いのは、最低賃金以下で働く人の割合が最も高い20業種での増加率は1.8%で、そのほかの業種の1.3%より高かったことです。最低賃金近くの賃金で働く人に悪影響が出ると言われていたのですが、ドイツでは真逆の減少が起こったのです。

ドイツでは最低賃金の導入の後に「ミニジョブ」が大きく減少したものの、全体の雇用の増加につながったと指摘されています。「ミニジョブ」とは、報酬が月450ユーロ以下で、労災保険以外の社会保険の適用されない職業です。所得税も免除されます。

最低賃金が導入された1年目に「ミニジョブ」は15万2600人分も減少して、2016年にも4万2448人分減少しました。このことだけを見れば、反対派は「ほれ見ろ、最低賃金を引き上げると、低所得者の失業が増えるではないか」と騒ぎたてるかもしれませんが、それは早合点というものです。

実は、ドイツが最低賃金を導入した際、「ミニジョブ」の書類提出規制なども強化されました。そのことが雇用者側にとって、非正規雇用者を正規雇用に変更するインセンティブになりました。また、最低賃金が導入されたことによって1時間当たりの賃金が上がったので、より多くの人がより短時間で「ミニジョブ」の報酬上限である450ユーロに到達することになりました。

月額の報酬が451ユーロ以上になると、「ミニジョブ」からアルバイトの扱いになるので、統計上は「ミニジョブ」が減少して、アルバイトが増えることになります。「ミニジョブ」の減少数約20万人のうち約半数が、社会保障が適用される雇用に切り替わったと分析によって明らかにされています。

日本への教訓
これは日本にとって大切な事実です。日本では最低賃金で働いている人の大半は女性です。厚生労働省の分析によると、2014年の数字では、最低賃金×1.15未満の賃金で働いている人のうち、72.6%を女性が占めているとされています。

日本にはいわゆる150万円の壁など、女性が自らの収入を低く抑えてしまいかねない制度があるので、最低賃金を引き上げていくと、その分だけ雇用者側が労働時間を短くしなくても、働く時間を減らす労働者が増えることが十分考えられます。

また、“Reallocation effects of the minimum wage: Evidence from Germany"という論文によると、ドイツが最低賃金を導入した結果、解雇される可能性は上昇しなかった一方、自主的に中堅企業に転職する人が増えたとされています。賃金の上昇の80%は、それによって達成されたそうです。

ドイツの事例の分析を探しても、女性やアルバイト、または外国人労働者への影響はまったくないわけではないが軽微で、正規雇用への影響はほぼないという結論のものしか見つかりません。しかも、旧東ドイツ地域での影響が大きくなると懸念されていたにもかかわらず、これもほとんどなかったとされています。

イギリスも1999年に最低賃金制度を導入した際には、全国一律の基準を採用しました。このときも、ロンドン以外の地方では影響が大きく、とくに地方の中小企業は耐えられずに雇用を減らすので、ロンドンへの一極集中が進むという反対の声が上がりました。

イギリスで全国一律の最低賃金制度が導入されてから20年経ちましたが、実際はどうなったでしょう。実は、イギリスでもドイツも同じ傾向が見られます。最低賃金の導入による影響が大きいと考えられていた地方でも、雇用全体への影響はほとんどありませんでした。しかし、しばらくの間は、地方の雇用成長率は低迷していたことが確認されています。


「最低賃金引き上げ」で経営者を動かす以外に道はない
 ここまでの話を総括してみましょう。

最低賃金の引き上げがなければ、雇用はもっと伸びたというのが学会のコンセンサスです。「雇用への影響」はこの事実を指します。

一方、最低賃金を引き上げると、離職する人が減ります。これは企業にとっては採用コストの削減というメリットになります。

「雇用への影響」が出るのは、生産性が低い企業です。最低賃金で多くの人を使っている企業ほど生産性が低い傾向にあるのは、世界的共通した傾向です。これらの企業では、コストの低い人力に頼っているため、最先端技術はおろか機械化も進んでいないところが少なくありません。しかし、最低賃金の引き上げを行うと、こういう企業からも生産性の向上を試みる企業が増えることが確認されています。

最低賃金が引き上げられると低生産性企業は「人を増やさなくなる」のが一般的ですが、生産性の低い企業が人を増やさなくなるのは、生産性向上の観点から見るとプラスです。

生産性の低い企業で働く人が全労働人口に占める比率が低下すると、国全体の生産性の向上につながります。このような動きが短期間に起きると、雇用全体への影響が顕著に現れますが、最低賃金の引き上げを徐々に行うと、経済全体で調整されるので影響はほとんど顕在化しません。

最低賃金の引き上げに反対の意を唱える人たちは、雇用の機会が減少してしまうので、若者や相対的にスキルの低い人が困ることになると反論するかもしれません。しかし、日本では、生産年齢人口は毎年約100万人ずつ減ってしまううえ、すでに180万人の外国人労働者を雇っているので、その心配は無用です。そもそも、生産性の低い企業に供給できる労働者は減っているのです。

また、この反論は事実にも反しています。安倍政権になってから最低賃金を継続的に引き上げた結果、何が起きたでしょうか。実は生産年齢人口が618万人も減ったにもかかわらず、最低賃金で働く人を中心に、雇用は371万人も増加しているのです。先ほど見たドイツと同じ結果が、日本でも起きているのです。

日本は高齢化が進むうえ、生産年齢人口が減るので、生産性を上げて賃金を上げるしか生き延びる道はありません。しかし、残念ながら大半の日本企業は、自発的に生産性を上げようとはしませんし、賃金も上げてはくれません。国が最低賃金を引き上げ、企業の変革を促すしか選択肢はないのです。新型コロナウイルスに対する緊急経済対策を打つときにも、この中長期的な使命に逆行してはいけません。







コロナで露呈した「日本経済の脆弱性」の根因

   「危機への対応」でも中小企業の弱さが目立つ


小さい企業ほど「テレワーク導入」ができない
コロナウイルスの蔓延により、多くの日本企業が窮地に陥っています。特に中小企業の経営は厳しく、今後多くの中小企業が経営破綻することが危惧されています。

当然ですが、このような危機への対応力は一般に企業規模が大きいほど強く、小さいほど弱くなります。国全体で見ても同様に、企業の平均規模が大きいほど危機に強く、小さいほど危機に弱くなります。


また、このような有事の際には、「企業さえ潰れなければいい」というわけではありません。そこで働く従業員の命や健康を守ることも大切です。実はこの面で見ても、規模が小さい企業ほど従業員を危険に晒しやすい可能性があります。

東京商工会議所が2020年3月に実施した調査によると、テレワーク導入率は従業員数300人以上の企業が57.1%だったのに対して、50人以上300人未満の企業では28.2%、50人未満の企業では14.4%にとどまっていました。

50人未満の企業の経営者も、悪意をもって導入を先送りしているわけではないでしょう。規模が小さすぎて、時間的にも金銭的にも人員的にも余裕がなく、導入できないのだと推察できます。こういった企業が多い国ほど、当然、テレワークの導入率は構造的に低下しますので、「Stay at home」に悪影響を及ぼします。

さらに、小規模事業者が増えれば増えるほど、その国の生産性が低くなるので、財政が圧迫されます。すると、小規模事業者が多い分だけダメージが大きいのに、それに対応するための予算が限られてしまうのです。

このように見ていくと、「中小企業は国の宝だ」という日本の「常識」が本当に正しいのか、疑問に思えてきます。私は、今回のコロナ危機で日本の産業構造の弱さが露呈したと考えており、その原因は中小企業にあると見ています。

今回は、かつて「日本の宝」だった中小企業が、なぜ産業構造の弱さの原因といえるのかを解説していきます。

中小企業の価値は「人をムダに使う」ことにある

日本では、中小企業がやたらと大事にされています。「中小企業は国の宝だ」「日本の技術を守っているのは中小企業だ」という声を聞くことも少なくありません。

確かに、そういう一面もないことはないでしょう。一般的に、中小企業は大企業より顧客との距離感が近く、また、意思決定が早く、身動きがとりやすいのは確かです。

一方、中小企業は規模が小さくなるほど、人力に頼る傾向が強くなります。従業員が少なく、分業ができないので、専門性が高まらず、機械化もなかなか進みません。その結果、効率化が進まないので、その分、余計に労働力が必要になるのです。だからこそ、生産性が低いのです。

人口が増加し、労働力があふれている時代には、中小企業の存在は貴重です。なぜならば、中小企業は人間により多く依存する「労働集約型」で、ある意味、人をムダにたくさん使ってくれるからです。

中小企業自体の労働生産性が低くても、これらの企業が雇用を増やし、就業率が高まれば、国の全体の生産性も高まります。その意味では、中小企業の存在も生産性の向上に貢献していたと言えるのです。

生産性とは、GDPを総人口で割ったものです(生産性=GDP/総人口)。また、労働生産性とはGDPを就労人数で割ったものです(労働生産性=GDP/就労人数)。ここから、生産性は労働生産性に労働参加率をかけた値であることがわかります。

生産性
=GDP/総人口
=(GDP/就労人数)×(就労人数/総人口)?
=労働生産性×労働参加率
この式からは、生産性を高めるためには「労働生産性」を高めるか、「労働参加率」を高めればいいことがわかります。

例えばある国の労働生産性が1000万円で、労働参加率が50%であれば、国全体の生産性は500万円です。この国で中小企業がたくさん生まれ、それらの企業が雇用を増やした結果、労働参加率が60%まで高まったとしましょう。すると、労働生産性がまったく伸びなかったとしても、生産性は500万円から600万円に上がるのです。

人口が増加していた時代においては、中小企業は「労働参加率」を高める役割を果たしていました。その意味で、「国の宝」と言えないこともありませんでした。

しかし、日本はすでに人口減少の時代に突入し、この傾向は今後数十年にわたって続きます。人をムダに多く雇う中小企業の存在は、強みではなくなり、逆に弱みに変わります。

なぜならば、企業というものは規模が小さければ小さいほど、労働生産性が低いからです。日本企業の99.7%は中小企業ですから、日本の生産性が低いという事実は、日本の中小企業の労働生産性が低いことをそのまま反映しているのです。


日本の中小企業の真の姿

中小企業庁によると、2016年時点で日本には357万社の中小企業があります。さきほども述べたとおり、全企業の99.7%を中小企業が占めています。

このように数多ある中小企業を一括りにして「中小企業は日本の宝だ」と考えるのは、そもそも乱暴すぎます。

もちろん357万社もあれば、玉石混淆なのは当たり前です。中には「玉=宝」もあるでしょうが、そうではない「石」もたくさん混じっているはずです。

確かに、日本の中小企業の中にも、宝といっていい企業も含まれているかもしれません。しかし、平均値で見ると日本の中小企業はあまりにも生産性が低く、払っている給料も極端に低いのです。仮に宝が含まれているとしても、全体としては、中小企業はとても宝だと評価するには当たらないのです。

「いやいや、私の知っている町工場は凄い技術を持っているんだよ。まさに宝だよ」

こういう、自分の知っている特殊事例を取り上げ、一般化して、それがあたかも日本の中小企業全体に当てはまるような物言いをする声も耳にしますが、まずは日本の中小企業全体の実態、エビデンスを直視すべきです。

先ほども紹介したように、日本には357万社の中小企業があります。


日本の中小企業のうち、中堅企業は53万社で、小規模事業者は305万社でした。平均従業員数は中堅企業が41.1人だったのに対し、小規模事業者はたったの3.4人です。驚くべきことに、1000万人もの労働者がこの豆粒のような小規模事業者で働いているのです。


実は、50%強の日本企業の売上は、1億円にも達していません。こういった企業は当然、経営に余裕がありませんから、有事のときにはすぐ経営が困難になります。


 出所:『中小企業白書?2019年版』より引用

中小企業を「日本の宝」と言う人が想像しているのは、今紹介したような企業群とは異なる会社ではないかと推察します。おそらくは中堅企業を想定しているのではないでしょうか。

小さい企業が多いとさまざまな弊害が起こる
従業員が3.4人しかいない小規模事業者では、到底輸出などできません。ドイツの学者の調査によると、継続的に海外に輸出をするには、従業員数158人の規模が必要であるとされています。

従業員数が3.4人の会社には、最先端技術も、キャッシュレス化も、ビッグデータも、イノベーションも、ほとんど無縁です。小さい企業ほど緊急時のテレワーク導入率が低いのは、この記事の冒頭で見たとおりです。日本だけではなく、世界的に見ても、企業の規模が小さくなるほど、最先端技術の普及率が低下することが報告されています。

また、企業の平均従業員数が少なくなるほど、有給休暇取得率が低下します。企業の規模が小さいほど、1人ひとりの社員にかかる負荷が重く、休みを取る余裕がなくなるからです。

同じ理由で、中小企業の占める割合が大きく、企業の平均規模が小さい国ほど、女性の活躍も進んでいません。これは世界中で確認できる傾向です。

人口減少と高齢化によって増加する現役世代の負担を緩和するためには、女性活躍の推進が極めて大切です。しかし、日本では女性活躍を進めたくても、小さい企業ばかりの産業構造になってしまっているため、なかなか進めることができないのです。

企業の規模が小さくなると、労働者の専門性が低下します。企業数が増えれば増えるほど、国全体の設備投資の重複が増えて、生産性が低下します。結果として、支払える給料も減ってしまうのです。


小規模事業者が多い国ほど財政が悪化して、少子化が進んでしまうこともわかっています(この点については、この連載のなかで改めてご説明します)。

このように、「中小企業は国の宝」というには、中小企業が多いことの弊害が多すぎます。失業者が増えないように統合・合併を促進し、企業規模を拡大させる政策に舵を切ることが求められます。










サービス業は「日本の低生産性」の主犯ではない

    「サービスはタダ」と低生産性には関係がない



サービス業の生産性が低い原因は「国民性」という誤解

本連載でも、また、他のところでも何度も繰り返し紹介していますが、日本の生産性は世界第28位で、先進国の中では最低レベルです。非常に、非常に低い順位です。これは誰が何を言っても否定することのできない、厳然たる事実です。

なぜ、日本の生産性はここまで低いのでしょうか。

業種別に精査してみると、製造業の生産性は比較的高水準なのですが、サービス業の生産性の低さが壊滅的なのがわかります。ほとんど目を覆いたくなるレベルです。

では、このように製造業とサービス業で生産性に大きな違いが生じていることは、一般的にはどう解釈されているのでしょうか。

まず製造業についてですが、「日本人は技術レベルが高いうえ、手先が器用、かつ勤勉だから高い生産性を生み出せている」という意見をよく耳にします。

一方、サービス業に関しては、「アメリカのサービス産業は、生産性は高いかもしれないが、サービスのクオリティはひどいもので、雑なんてものじゃない。逆に、日本のサービスは非常にきめ細かく、かつ丁寧なので、生産性が低くなってしまうのだ」「日本人は無形のサービスに対して対価を払う習慣がなく、チップを払う文化もないので、生産性が低いのだ」のような意見が見られます。

この考え方の延長として、「サービス業の生産性を高めると、日本のサービス業のレベルが下がる」と言われます。「宅配便の再配達をしてもらえなくなるよ」などが代表的な意見です。

日本のサービス業の生産性が他の国に比べて著しく低い、これは疑いようのない事実です。そして、日本のサービスは非常にきめ細かく丁寧です。これも事実でしょう。

しかし、本連載でも繰り返し述べているとおり、先に述べたような日本の文化や国民性が、日本と他国との生産性の違いにどれほど影響を及ぼすものなのか、まずはキチンと因果関係と関連性を確認するべきです。要するに、宅配便の再配達が無料なのは、生産性が低いことの原因なのか、生産性とは関係のない特徴なのかを確かめるべきです。

結論から言うと、日本のサービス業の生産性が低いことと、国民性や文化的要素はほぼ無関係です。理由をこれから説明します。

製造業の生産性が高いのは「規模が大きい」から

まず、なぜ日本でも製造業の生産性が比較的高水準なのか、この点から考えてみましょう。

日本の製造業の生産性が高い最大の理由は、製造業の企業は規模が大きいから、これに尽きます。日本の製造業の1社当たりの平均従業員数は24.8人です。全業種平均の13.0人の1.9倍と、圧倒的に多いのです。

大企業に限ってみると、全業種平均は1307.6人ですが、製造業では1679.9人です。中堅企業では製造業の従業員数は全業種平均の約2倍、小規模事業者でも製造業の従業員数は全業種平均の1.9倍です。

要するに、製造業は規模が大きいので社員1人ひとりの専門性も高くなり、重複投資も減るため効率よく稼げる、すなわち生産性が高くなるのです。

製造業が他の業種に比べて規模が大きいのは、全世界で共通して確認できる傾向です。なぜ製造業の規模は大きくなるのでしょうか。その理由の1つに、製造業は工場や機械など製造設備が必要で、大きな固定費が必要なことが挙げられます(他の理由は、本連載の中で別途紹介します)。

建設業なども含んだ日本の製造業の平均従業員数は17.2人です。これはサービス業の平均11.7人の1.47倍です。生産性はサービス業の468万円に対し、製造業は717万円なので、1.53倍です。

平均従業員数が1.47倍、生産性が1.53倍。平均従業員数に比例して生産性が高くなっている姿が見事に表れています。


日本のサービス業の規模はアメリカのわずか26.7%

日本のサービス業の生産性が低い根因は、企業の平均規模が小さいからです。チップの文化がない、再配達をしているなどの特徴は、生産性が低い原因とは言えません。

企業の規模が大きくなるとサービスのクオリティが下がると言い出す人が出てくるかもしれませんが、まったく論理的ではありません。仮に、日本のサービス業の企業の従業員数の平均が、11.7人から17.2人になったとしても、サービスのクオリティが下がる必然性はないと思います。雇用が減ることもないでしょうし、細かいサービスができなくなるわけでもないでしょう。

さらに言うと、「規模の経済」という経済学の理論に基づいた科学的な根拠がある以上、日本のサービス業の生産性が低い原因を諸外国との文化の違いや国民性に求めるのは、まったくの的外れです。そういう抽象的な説明は、俗説的な感情論にすぎません。

日本のサービス業の生産性が低い本当の理由は、サービス業の企業の規模があまりにも小さいからです。日本のサービス業の1社当たりの従業員数は、アメリカのわずか26.7%です。だから生産性が低いのです。一方、製造業はアメリカとの比較でも、77.8%なので、あまり差が出ていないのです。

EUの分析によると、日本企業の平均規模はEUの先進国より23%も小さく、アメリカより40%も小さいのです。日本の生産性が低いのは、企業の規模が小さいから、それが主たる原因です。

ではなぜ、サービス業の企業の規模は小さいのでしょうか。それはこの連載で後ほど明らかにしていきますが、「日本人の価値観」などという抽象的な原因ではないことだけは、先に申し上げておきます。








生産性低迷は「下請けイジメのせい」という誤解

      「一部の事例」を一般化するのは間違いのもと


主張する前に「データの確認」をするべき

私は30年以上にわたって、日本経済の分析を続けてきました。その間に得られた知見の1つに、「日本では俗説的な感情論を振りかざされることが多い」というものがあります。


例えば、日本の中小企業の生産性が低いのは厳然たる事実ですが、この事実を正当化したいのか、以下のような論理を振りかざす人もいます。

「中小企業の生産性が低いのは、取引先の大企業の度重なる値下げ要求のせいだ」

この論理は、次のように展開されます。

「大企業の生産性が高いのは中小企業を叩いて、本来中小企業に計上されるべき付加価値を吸い上げているだけだ」

確かに、大企業による下請けイジメ、すなわち搾取は存在します。私が経営する小西美術工藝社もそういう目に遭うことがあります。しかし、357万社ある中小企業のうち、すべてが下請けなのか、その被害を357万社すべてが被っているのか、冷静になって考えてみる必要があります。

まず、仮に「大企業による搾取」が中小企業の生産性の低さの原因だというのであれば、中小企業の何パーセントが大企業の下請けや孫請けをやっているのか、それが中小企業の生産性に対してどこまで悪影響を与えているのかを確認するべきです。

このような検証もせず、自身の会社に起きていることや、聞いたことがある話を日本経済全般に一般化して考えを進めてしまうと、「中小企業の生産性の低さの原因は、大企業による搾取だ」と結論づけて、中小企業の生産性の低さを正当化できた気になってしまうのです。

賢明なる読者の皆さんには説明の必要はないかもしれませんが、いまの話には著しい論理の飛躍があります。

この件に関して、近著『日本企業の勝算』の中で4つの検証結果を紹介しています。ここでは、その分析の概要をご紹介しましょう。


「搾取説」には数字の裏付けがない

分析1:搾取が多いと言われている業種の生産性はむしろ高い
まずは、搾取で苦しんでいる中小企業が多いと言われている産業の生産性を検証してみました。

搾取がひどいと言われる産業の代表として、よく挙げられるのが建設業と製造業ですので、これら2業種の生産性を確認してみました。すると、製造業の生産性は722万円で、建設業は568万円でした。いずれも全業種平均の546万円より上で、全体平均を上回っていることがわかります。

これら2業種では、大企業と小規模事業者の格差が非常に著しいので、大企業による搾取が一部で行われている可能性は確かに否定できません。しかし、両業種の中堅企業の生産性も小規模事業者の生産性も、全業種平均より高いのです。そうである以上、業界全体で搾取が行われ、それが日本の生産性低迷の原因であるという結論に結びつけるのは無理があります。


日本の中小企業の生産性を最も低下させているのは、宿泊・飲食、生活関連や小売業です。これらの業種は、基本的に建設業や製造業ほど大企業と下請けという明確な力関係があるわけではありません。小売業の中には、各地方の商店街の店なども数多く入っていることを忘れてはいけません。したがって、搾取によって生産性が低下しているというのは、極めて疑わしい説だと言わざるをえません。

このように少し調べれば、「思う」「思わない」という俗説的な感情論は事実を捻じ曲げているだけだということが一目瞭然となります。


業種別でも都道府県別でも「搾取説」には根拠がない

分析2:業種別分析では「搾取説」が否定される

日本の生産性が低い理由を「搾取」という特殊要因に求める前に、エビデンスを検証し、一般的な経済原則で説明できるかどうかを確かめることが重要です。

前回の記事(「日本は生産性が低い」最大の原因は中小企業だ)でも説明しましたが、私は日本の生産性が低い最大の原因は、規模の小さい小規模事業者や中堅企業に偏っている産業構造にあると分析しています。規模の問題です。

これが事実であるとすれば、業種別に見ても同じことが言えるはずです。つまり、小さい企業が多い業種は生産性が低くなり、小さい企業が少ない業種は生産性が高くなるというように、生産性と企業規模に強い相関関係があるはずです。

そうではなく、中小企業の生産性が低い理由が大企業による搾取なのだとしたら、すべての業種で均等に搾取の影響が生じるはずはないので、業種別の生産性と企業規模の相関関係は弱くなるはずです。

どちらが正しいか、実際のデータで確認してみましょう。『中小企業白書?2019年版』のデータによると、業種別の生産性と企業規模の相関係数は0.84で、極めて強い相関関係が確認できます。

つまり、一部で大企業による搾取が行われている可能性は否定できないものの、それが中小企業の生産性が低いことの原因ではないと言えます。


分析3:都道府県別分析でも「搾取説」は否定される

この結論をさらに確かめるために、別のデータでも検証してみました。都道府県別の生産性です。私の仮説が正しいなら、小さい企業が相対的に多い都道府県ほど生産性が低くなり、小さい企業が相対的に少ない都道府県は生産性が高くなるという、強い相関が見られるはずです。

逆に「搾取説」が正しいなら、都道府県別の生産性と企業規模の相関関係は弱くなるはずです。なぜならすべての業種のすべての中小企業が搾取されているはずはないので、搾取されやすい業種が多い都道府県の生産性は低くなり、そうではない都道府県の生産性は相対的に高くなるはずだからです。

実際に計算すると、都道府県別の企業規模と生産性の相関係数は0.83と、こちらも非常に高い数字です。これこそ、日本企業の生産性の低さが企業規模で説明できることの証拠です。

「大企業による搾取の結果、その他の企業の規模が小さくなっているのではないか」という仮説も、考えられないことはありません。しかし、0.83という強い相関係数が出るほど、搾取の影響が企業規模に直接的に影響することは極めて考えにくいです。

素直に考えれば、規模が小さいから搾取されてしまうのであって、搾取されているから規模が小さくなってしまっているのではないと考えるほうが妥当でしょう。なぜ日本の中小企業の規模が小さくなって、一部が搾取されやすいかについては、本連載の中で真因を追求し、今度、解説したいと思います。


データ数が多いEUとの比較でも結果は同じ

分析4:EUとの比較でも「搾取説」は否定される

ここまでの検証結果をさらに確かめるために、データの数が圧倒的に多いEU28カ国のデータも紹介しておきましょう。

先ほど「中小企業の生産性が低い理由が大企業による搾取なのだとしたら、すべての業種で均等に搾取の影響が生じるはずはないので、業種別の生産性と企業の規模の相関関係は弱くなるはずです」と書きました。そして実は、EU28カ国の企業規模と生産性の相関関係は0.58でした。日本のほうがよっぽど高いのです。

では日本よりEU28カ国のほうが搾取がひどいのでしょうか。しかし、これも理屈に合いません。なぜなら、EU28カ国の中堅企業と小規模事業者は生産性の絶対水準がかなり高いですし、大企業の生産性との格差も日本ほどはないからです。ちなみに、中堅企業の平均社員数はEU28カ国が104.4人なのに対し、日本は半分以下の41.1人です。両者の生産性の違いは、このような企業規模で説明できます。


今回の本で発見したのは、俗説的な特殊論を検証すると、それは一部の経験やエピソードの不適切な一般化にすぎず、日本経済は経済原則に素直に沿った経済であるということです。日本型資本主義を信仰している人は、ただ単に検証したことのない、適当な俗説を信じているだけです。

私は30年間、日本の経済神話を検証して、真実を求めてきました。大半はただの神話でした。今回もそうです。

つまり、大企業による搾取が中小企業の生産性の低さの原因であるという説は、どう考えても理屈が通らないのです。俗説的な感情論でしかないと断じるしかありません。?







「最低賃金引き上げで韓国は大混乱」は正しいか
私はこれまでずっと、日本は最低賃金を継続的に引き上げるべきだと主張してきました。残念ながら今年は据え置きが決まりましたが、来年以降はぜひ、引き上げるべきだと考えています。


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私がこう主張すると、反対派が必ずと言っていいほど言及することが2点あります。

1つは「海外では最低賃金の引き上げによる雇用への影響に関して、まだ研究者の間でもコンセンサスがない」ということです。この主張が間違えているのは、エビデンスではなくエピソードに基づいているからだということは、前回の記事(最低賃金「引上げ反対派」が知らない世界の常識)で詳しく説明しました。

もう1つが、「韓国では最低賃金の引き上げで失業者が増え、経済がボロボロになった」という反論です。「最低賃金を引き上げたらどうなるかは、韓国を見ればわかる」「最低賃金の引き上げによって、韓国は大不況になった」などと言われます。これもまたエピソードベースの話ではありますが、今回はこの件について検証していきます。

日本で失敗事例としてやり玉に挙げられるのは、2018年と2019年の最低賃金の引き上げです。まず2018年に16.4%引き上げられ、翌年も10.9%引き上げられました。日本に当てはめると、2019年の最低賃金901円(全国加重平均)が、わずか2年で1163円になるほどの引き上げです。

このデータポイントだけを見れば、そのストーリーは成立します。しかし、このデータポイントだけを見て、「韓国はダメになった」と決めつけてはいけません。もっと長いデータを見て、その動きを検証するべきです。

長期データで「最低賃金引き上げ後の失業率」を見る
実は、2018年も2019年も、最低賃金を引き上げた年初めは失業率が大きく上昇しましたが、その後年末にかけて、失業率は大きく低下しているのです。


もっと長いデータで見ると、韓国では毎年、第1四半期の失業率が跳ね上がり、年末に向けて落ち着く傾向が確認できます。

2018年に最低賃金を引き上げたときは、失業率の上昇が注目されて、大きな悪影響を与えているように報道されました。しかし韓国経済の統計を見ると、第1四半期に失業率が大きく跳ね上がるのは毎年のことで、別に珍しい現象ではないことがわかります。


失業率が毎年第1四半期に跳ね上がるのであれば、2018年と2019年の第1四半期の数値は、それ以前の年の第1四半期と比較するべきです。最低賃金の大幅な引き上げによって、普通以上に失業率が跳ね上がったのかどうかを探るべきなのです。

2018年と2019年の第1四半期には、全体の失業率はそれぞれ4.1%と4.2%でした。2000年からの平均が4.2%ですので、失業率の上昇は「例年並み」と言えます。15〜24歳の失業率の失業率は2018年も2019年も11.7%でした。2000年からの平均値は11.4%ですので、多少高いだけです。


最低賃金引き上げの影響はすぐになくなった
次に、2019年には最低賃金による混乱が第2四半期まで続きましたが、その影響はどこまで継続したのでしょうか。

それを探るには、第4四半期のデータを見るべきです。2018年と2019年の第4四半期には、全年齢の失業率はそれぞれ3.5%と3.2%です。平均は3.5%ですので、平均以下です。15〜24歳でも、それぞれ9.1%と8.5%で、平均の9.2%を下回っています。


日本のマスコミの多くは、最低賃金引き上げ後の騒動は取り上げましたが、すぐに落ち着いた事実はほとんど報道しませんでした。

これでは、冒頭でご紹介したように「最低賃金の引き上げで韓国経済はボロボロになった」という認識を持っている人がいても、ある意味仕方がないとは思います。ですが、その認識を根拠に何か意見をする場合には、一度落ち着いて、失業率のデータを探すくらいの慎重さがあってもいいのではないでしょうか。

客観的に見れば、2018年と2019年の最低賃金の引き上げは、韓国の失業率には大きな影響を与えているとは言えないのです。

この記事では、倒産の統計はあえて紹介しません。それは、倒産が増えても、失業率が上がらなかったら、その統計は重要ではないと考えているからです。

日本では、倒産イコール失業率の上昇と捉えている人が多いですが、それは誤解です。統計上、日本の経営者が強調するほど、倒産と失業率の間には相関関係も因果関係もないのです。

私は、韓国の産業構造は日本以上に弱いと考えています。しかしデータを分析すると、最低賃金で働いている人の賃金は、この2年間の引き上げで表面的に30%も増えたことがわかります。しかもこの間、失業者は増えていないのです。

2019年、韓国は労働生産性で日本を抜いた
では、労働生産性はどうなったでしょうか。世界銀行によると、韓国の購買力調整済み労働生産性は1991年の51位から、2019年には31位まで上がりました。この年の日本の順位は34位で、初めて韓国に抜かされました。GDPを人口で割った生産性でも、IMFの2020年予想では、韓国は日本の99.2%まで上がり、2021年か2022年には日本を抜いていく勢いです。


日本のマスコミの多くは、最低賃金引き上げ後の騒動は取り上げましたが、すぐに落ち着いた事実はほとんど報道しませんでした。

これでは、冒頭でご紹介したように「最低賃金の引き上げで韓国経済はボロボロになった」という認識を持っている人がいても、ある意味仕方がないとは思います。ですが、その認識を根拠に何か意見をする場合には、一度落ち着いて、失業率のデータを探すくらいの慎重さがあってもいいのではないでしょうか。

客観的に見れば、2018年と2019年の最低賃金の引き上げは、韓国の失業率には大きな影響を与えているとは言えないのです。

この記事では、倒産の統計はあえて紹介しません。それは、倒産が増えても、失業率が上がらなかったら、その統計は重要ではないと考えているからです。

日本では、倒産イコール失業率の上昇と捉えている人が多いですが、それは誤解です。統計上、日本の経営者が強調するほど、倒産と失業率の間には相関関係も因果関係もないのです。

私は、韓国の産業構造は日本以上に弱いと考えています。しかしデータを分析すると、最低賃金で働いている人の賃金は、この2年間の引き上げで表面的に30%も増えたことがわかります。しかもこの間、失業者は増えていないのです。

2019年、韓国は労働生産性で日本を抜いた
では、労働生産性はどうなったでしょうか。世界銀行によると、韓国の購買力調整済み労働生産性は1991年の51位から、2019年には31位まで上がりました。この年の日本の順位は34位で、初めて韓国に抜かされました。GDPを人口で割った生産性でも、IMFの2020年予想では、韓国は日本の99.2%まで上がり、2021年か2022年には日本を抜いていく勢いです。

乱高下はあったものの失業率が高まっているわけではないこと、2019年に韓国の労働生産性が世界で31位まで上がって、初めて日本を抜いたことを考えると、韓国の最低賃金の引き上げが失敗だったという理屈は成立しづらいと思います。長い目で見れば、成功したという評価になるかもしれません。

なお日本では最低賃金の議論に絡めて、韓国の若年層の失業率の高さがよく取り上げられます。Korea Labor Instituteによると、求職中の若年層の約8割は大卒ですが、韓国企業の求人のうち大卒を求めているのは全体の3割だそうです。これは小規模事業者が日本以上に多く、日本以上に産業構造が弱体化していることを反映していると解釈しています。

韓国の引き上げは「失敗」ではなかった
結論として、最低賃金で働いている人の給料は30%も上がりましたが、最低賃金の引き上げの影響は長引くことなく、長期トレンドに戻っているのです。

たしかに数カ月間の騒動はありましたが、結局、韓国で行われた最低賃金引き上げの影響は、日本で大げさに言われているほどのものではなかったのです。

各国で行われた1451もの研究を総括すると、最低賃金引き上げは雇用全体には悪影響を与えないということは、前回説明しました(参照:最低賃金「引上げ反対派」が知らない世界の常識)。そもそも韓国というたった1つの国のエピソードだけで、この結論を否定することはできません。

さらに韓国の例でも、時間が経ってデータがそろってきた段階で検証してみると、最低賃金の引き上げは雇用全体には影響を与えないというコンセンサスどおりだったと言っていいと思います。

とはいえ、私は別に、日本でも韓国のように大幅に最低賃金を引き上げるべきだと提唱しているわけではありません。日本は、イギリスのように継続的に、毎年3%から5%ずつ引き上げるべきだという従来からの主張に変わりはありません。



    2020-8-6






人口減少の日本には「所得倍増計画」が不可欠だ
単発の政策ではなく「パッケージ」で対応せよ
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長期的には「生産性がすべて」だ
今回の記事が本連載の最終回となります。そこで、これまでお伝えしてきた内容を総括してみたいと思います。


『日本企業の勝算』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら。楽天サイトの紙版はこちら、電子版はこちら)
ノーベル経済学賞受賞者であるクルーグマン教授は、The Age of Diminished Expectationsという本の中で、「生産性はすべてではないが、長期的にはほぼすべてである」という名言を残しています(Productivity isn’t everything, but, in the long run, it is almost everything)。

今後の日本では、他の国以上に「生産性がすべて」となります。なぜなら、これからの日本では何十年にもわたって、どの先進国より人口が大幅に減少し続けるからです。それにより、主に以下の3つの変化が起こります。

(1)(需要者となる)客が大きく減る

(2)労働者が大きく減る

(3)高齢者の年金や医療費など社会保障費用を負担する人数が減る

これらの問題に対処するためには、生産性を高めなければなりません。

生産性は「GDP÷人口」と計算されます。今後人口は減りますが、社会保障を受ける高齢者の数は減りませんので、GDPを少なくとも維持する必要があります。人口が減る以上、GDPを維持するためには生産性を向上させなくてはなりません。

GDPは「消費+投資+政府支出+純輸出(Y = C + I + G + NX)」と定義されます。このうち最大の項目である消費は、究極的には「労働者数×給料」で決まるので、消費総額を守るためには、労働参加率と給料を上げる必要があります。

安倍政権のもと、ここ数年で日本の労働参加率は劇的に高まり、ほぼ上限に近づいていますので、これからは給料を上げていかなければなりません。給料は結局のところ労働生産性に比例しますので、労働生産性を引き上げる経済政策が必要です。


「大企業ほど労働生産性が高い」は世界の常識
日本だけでなく世界的に、労働生産性は企業規模が大きくなるほど高まります。ですから、給料を高めるには企業の規模を拡大する必要があります。現状、日本企業の平均規模はアメリカの6割、EUの3分の2しかなく、労働生産性が低迷する大きな要因となっています。

日本とEUの労働生産性を企業規模別に比較してみましょう。大企業の労働生産性では、日本はEUを上回っていますが、中堅企業と小規模事業者では、逆に大きく下回っています。これも実は規模の問題です。EUの中堅企業の平均的な規模は104.4人。対する日本は、わずか41.1人にすぎないのです。



人口減少の話をすると、「いまは高齢者が元気なんだから、定年を延長して働き続けてもらえばいい」と言われることがあります。しかし残念ながら、日本の人口減少はそういった小手先の対応でなんとかなるほど甘いものではありません。

2019年の就業者数は6724万人でした。そのうち、高齢者は862万人を占めています。

日本の生産年齢人口は、2060年には4420万人まで減ると予想されています。今の就業者数を維持するには、計算上、さらに2300万人の高齢者が就職しないといけなくなりますので、高齢者の就業者数は3166万人となります。

2060年の65歳以上人口は3464万人と予想されていますので、労働参加率は91%です。これは、あまりに非現実的な数字でしょう。

すべての企業を守るのは絶対に不可能
次に、企業規模別の平均社員数で同様の思考実験をしてみましょう。

2016年の平均社員数は、大企業が1307.6人、中堅企業が41.1人、小規模事業者が3.4人で、全体の平均は13.0人でした。従業員数は全体で4679万人でした。


2060年までに、生産性年齢人口は約40%減るとされています。従業員数も同じ割合で減るとすると、4679万人から2807万人まで大きく減少します。

まず、すべての企業の社員数が同じ比率で減るとすると、平均社員数は大企業が785人、中堅企業が24.7人、小規模事業者が2人になり、全体の平均は7.8人まで減ります。各企業の平均規模が縮小するので、労働生産性も大きく低下します。

次に、すべての企業の社員数が同じ比率で減るのではなく、小規模事業者を優先的に守ったときに何が起きるか、見ていきましょう。

小規模事業者に勤める人の数は2016年と変わらず1044万人ですので、全体の従業員数2807万人から1044万人を引いた1763万人を、大企業と中堅企業で分けることになります。2016年と比べ、49%の減少です。

小規模事業者の生産性は大企業の41.5%しかありません。生産性の最も低い企業群で働く労働人口の比率が上がることによって、国全体の生産性は劇的に低下するでしょう。それに加えて、大企業と中堅企業の生産性もスケールメリットの後退によって大きく低下し、国全体の生産性をさらに押し下げるでしょう。

さらに、この1763万人の労働者を大企業から優先的に配分していくと、中堅企業に配分できる労働者は304万人まで減ります(1763万人−1459万人)。中堅企業に勤める人は86%も減少してしまいます。中堅企業が今の規模のままだとすると、中堅企業には7.4万社分の労働者しか配分できないで、45.6万社の中堅企業が廃業することになります。中堅企業は日本の技術の根幹なので、経済はガタ落ちするでしょう。

では、小規模事業者を優先的に守る代わりに、大企業と中堅企業を守ることにしたら、どうなるでしょうか。

2807万人のうち、まずは大企業に現状どおりの1459万人を配分すると、残りは1348万人になります。中堅企業33万社分にしかならないので、残り20万社の中堅企業と304.8万社の小規模事業者すべて、合計324.8万社が廃業を余儀なくされるのです。

もちろん、これは極端な仮定をおいた話ですから、現実はこれらの中間のどこかに落ち着くはずです。問題は、「方向性として」どれを目指すかです。

生産年齢人口が減る以上、@全体の規模を小さくして生産性を下げる、A小規模事業者を守って中堅企業を潰す、B規模の大きな企業から守って小規模事業者を減らすの3つしか選択肢はありません。@とAでは、経済は確実にボロボロになります。とるべき方向性は、Bしか残らないのです。

企業数が減っても雇用は減らない
企業数が減ることに対しては懸念の声を上げる人が少なくありませんが、企業の数が減るのは別に今に始まった現象ではありません。過去のピーク時から比べると、企業の数はすでに大きく減っていますが、就業者数は逆に増えています。

企業の数と雇用には、日本で信じられているほど強い相関関係も因果関係もないのです。企業数の減少傾向が今後も続くだけなので、大騒ぎする問題ではありません。


企業数と雇用数の増減が必ずしも一致しないことは、日本ではあまり理解されていません。小規模事業者の数を減らしても、労働者を大企業と中堅企業に移動させれば、企業数が減っても雇用は変わりません。これによって産業構造はより強固になります。

例えば、3000人の労働者が、社員数3人の1000社で働いているケースを想像してください。1000社のうち半数がなくなったかわりに、3社が社員数500人の中堅企業に成長したとすると、企業の数は半減しますが、雇用は減りません。「企業数の減少=雇用数の減少」というほど単純な話ではないのです。

労働生産性を高めるには企業の平均規模の拡大が必須条件となるので、労働者の減少以上に企業数を減らす必要があります。企業の平均規模が拡大すれば、スケールメリットを得ることも可能になります。また、企業の規模が大きくなるほど、投資能力も輸出能力も増えます。つまり投資を増やしたり、輸出を促進するのにも、企業の規模拡大が必要となるのです。

「最先端技術の普及によって、人が減ってもなんとかなる」と主張する人もいます。しかし、ほとんどの小規模事業者は最先端技術を活用できる最低ラインの規模になっていませんので、その理屈は机上の空論です。

どんなシナリオでも、人口が減る以上、企業数は絶対に減ります。政府はどういった企業を残し、どういった企業を減らすのかを真剣に考える必要があります。

これを完全に市場に任せるのは、極めて危険です。そもそも今の脆弱な産業構造自体が、国の経済政策に対応してできたものでもあります。

政府が小規模事業者を優遇し続けていけば、中堅企業と大企業が犠牲になります。国は基礎から崩壊するでしょう。逆に、中堅企業を徹底的に優遇して、小規模事業者の優遇を減らせば、労働力は小規模事業者から中堅企業に移動します。日本が目指すべきは、この方向です。

雇用を減らさずに労働生産性を高めよ
日本は「低い失業率・低い労働生産性」の国です。私が労働生産性を高めようと主張すると、「そんなことをしたら失業率が高まる」という反論を受けますが、低い失業率と高い労働生産性は両立可能です。

経済はゼロサムゲームではありません。日本では、このことに関しても理解が足りないと常に感じます。

先ほども説明したように、現在の日本の労働参加率は史上最高で、これ以上引き上げるのは限界に近づいています。

国全体の生産性は「労働生産性×労働参加率」という式で表すことができます。労働参加率が限界に近くなっているのであれば、さらに生産性を高めるためには、労働生産性を高める必要があるのは自明です。

少し前まで、世の中では景気が良くなっているのに、その実感がわかないとよく言われていましたが、その理由は明白です。労働参加率を高めると生産性は上がりますが、給料は労働生産性と連動しているので、労働生産性が上がらないと給料は上がりません。こちらがそれほど上がっていないのです。


つまり、日本経済の最大の問題は労働生産性の低さなのです。1991年の日本の労働生産性は世界25位と、当時から決して高い順位だったわけではありませんが、2019年には34位とさらに順位を下げています。


低い労働生産性は今までも存在していた日本経済の構造的な問題だったのですが、これまであまり問題視されず見逃されてきました。しかし、ここまで低下してしまった以上、もう放置するわけにはいきません。メスを入れないわけにはいかないのです。

すべての問題の根本原因は「企業規模」が小さいこと
では、経済政策として何が必要でしょうか。一般的に、経済政策として規制緩和、最先端技術の普及、女性活躍などが挙げられます。確かに、これらの政策もムダではないかもしれません。

しかし私は、日本で技術の普及や女性活躍などが進まないのは、日本が抱える問題の根本原因ではなく、もっと根本的な構造問題の「結果」として生じている現象だと考えています。

その根本的な構造問題とは、「日本の企業の規模が小さすぎること」です。この問題の根本原因にメスを入れずに、結果に対する対策を打っても、効果は期待できません。


要するに、日本で最先端技術の普及が遅れている原因は、お金がないとか、人材がいないといった理由ではなく、その技術を活用できるほど企業規模が大きくないからなのです。そういった企業にどんなアドバイスをしても、最先端技術を導入するための補助金を出しても、ムダに終わるのは自明です。


追求すればするほど、日本経済の最大の問題点が「ダイナミズムの欠如」であることが明らかになります。ここでいうダイナミズムとは、「安定的な雇用の下、効率よく新しい企業が生まれ成長する。成長しない企業の数はできるだけ抑えて、可能な限り多くの企業が中堅企業に成長する」ことを意味します。企業の淘汰だけを意味するわけではありません。

技術の進歩によって、世界的に大企業の平均規模が小さくなる一方、中小企業の平均的な規模が拡大しています。企業の規模が「中堅企業レベル」に収斂しているのです。

強い経済の鍵は「企業の淘汰」より「企業の成長」
正しい分析を進めると、アメリカ経済の労働生産性の高さの秘密は、企業のダイナミズムにあることが明らかになってきます。


データを見ると、アメリカは欧州より「成長する企業」が圧倒的に多いという特徴があることがわかります。アメリカでは小さい企業が多数生まれる一方、多数が市場に残れず退場するとよく言われます。

しかし、それよりも、中堅企業に成長する企業が欧州より圧倒的に多いことがポイントです。成長しない企業が非常に少ないのです。何でも反対する人は、アメリカの企業社会は弱肉強食で、多くの企業が容赦なく淘汰されていくと言いますが、それは結論ありきの誤った解釈です。

日本の問題は、「淘汰されるべき企業が淘汰されない」ことではありません。生まれてくる企業が「成長しない」ことこそが大問題です。データを見ると、2012から2016年の間、小規模事業者から中堅企業に成長したのは、たったの7.2万社でした。


このように日本および他国の状況を見渡すと、とるべき経済政策が見えてきます。

政府は、起業を応援するべきです。政府は、企業の成長を応援するべきです。政府は、最先端技術などへの投資を応援するべきです。政府は、企業が退場する場合、その悪影響を緩和するべきです。

「規模が小さい」ことを支援の根拠にしてはならない
一方、政府がやってはいけないのは、成長しない企業を優遇・支援することです。成長しない企業を守っている余裕は、これからの日本にはありません。

企業の規模で支援・優遇する対象を決めるのもいけません。European Councilがまとめた「The Use of SME Tax Incentives in the European Union」という素晴らしい論文があります。

この論文では、ドイツやデンマークのように、企業の規模で支援対象を決めず、中小企業への税優遇が少ない国ほど、生産性が向上していると分析しています。

特に、アウトプット税優遇は危険だとあります。アウトプット税優遇とは、企業活動の結果生み出される利益に対する税優遇です。

日本でも、「中小企業は大企業に比べて実効税率が高いから、低くするべきだ」と主張する人がいます。しかし、そもそも日本の中小企業の大半は慢性的な赤字企業で、法人税を払っていません。

その点に目をつぶっても、European Councilは、その議論は本質的な議論ではないから無視するべきと言い切っています。大企業と同じような実効税率になっていない理由は規模が小さいからで、同じ実効税率を実現したいなら大企業になればいい、としています。

減価償却はインプット税優遇で、これに関してはビジネスを改善するので望ましいとありますが、日本のように接待費の優遇や、法人税率を下げることは危険であるとされています。

ただ単に規模が小さいからという理由で優遇すると、企業は成長しなくなります。また、その優遇を狙って、慢性的な低成長・低賃金企業が蔓延します。

「The Use of SME Tax Incentives in the European Union」によると、日本ほどではありませんが、EUの中小企業政策も、実質的に小規模事業者支援策になっているとあります。中堅企業は優遇策の3分の1しか使えないそうです。

先進国では、小規模事業者の過半数はライフスタイル企業であるという認識が高まっています。ライフスタイル企業とは、人に命令されて働くことを嫌い、経営者がやりたい放題に会社を運営している企業を指します。これらの企業の特徴として、税の優遇や補助金目当ての経営者が非常に多いため、決算が赤字の企業が多いことが指摘されています。

このようなライフスタイル企業が成長する例はまれで、小規模事業者は全体の5%前後しか成長しないと分析されています。このような企業が増えてしまうのは、危険だとされています。

日本でも同様の傾向が見られます。小規模事業者の大半は補助金や節税を目当てにつくられ、生産性向上や日本の技術を活用することなどはまったく考えていません。


今までの日本政府は、「小さい企業は、力が弱くてかわいそうだから支援する」という考え方のもと、政策を実行してきました。しかし、労働生産性を向上させるという観点からはまったく成功しているとは言えません。

これからは、労働生産性の向上を経済政策の基軸にして、頑張っている企業をとにかく支援することが求められます。

国難を打開する「政策パッケージ」が必要だ
日本では従業員数が少なく、資本金が1億円以下の中小企業が、企業支援の対象の大半です。このような基準で支援対象を決めてしまうと、企業としては優遇措置と補助金をもらい続けたいので、自ら成長を止めるようになります。

実は、資本金1億円以下の慢性的赤字企業の売上が、日本企業全体の売上の32%を占めています。赤字である以上、これらの企業は法人税を払っていません。「合法な脱税」と言っても過言ではないこの数字には、正直言葉もありません。

つまり、良かれと思って実行していた支援策が、結果として小規模事業者の成長の妨げとなっているのです。優遇対象となる基準の手前で自ら成長を止めるこの現象は「bunching」と言って、日本でも統計分析によって確認されています。

人口減少時代に対応するため、日本が実施するべき理想的な政策は以下になります。

(1)中小企業庁を企業育成庁に改組
(2)中小企業の定義を「500人以下」まで拡大
(3)小規模事業者より中堅企業を厚く支援
(4)中小企業の税優遇基準となっている「資本金1億円以下」という基準を廃止
(5)補助金などを出すときに必ず、今の生産性と生産性向上目標を記入させる
(6)経営者の教育を徹底
(7)税優遇は主に研究開発や設備投資に限定
(8)小規模事業者の支援期間を5〜7年間に限定し、それ以降は支援を打ち切る
(9)段階的に最低賃金を引き上げる
日本の研究でも、海外の研究でも、最低賃金を引き上げると、労働力は小規模事業者から中堅企業に移動することがわかっています。内閣府経済社会総合研究所が2020年6月に発表した「最低賃金引上げの中小企業の従業員数・付加価値額・労働生産性への影響に関する分析」にも、同様の言及があります。

小規模事業者の圧力団体たる商工会議所は「雇用が減るから、最低賃金は引き上げるべきではない」と言って反対しますが、この主張は根本的に間違っています。たしかに小規模事業者の雇用は減りますが、国全体の雇用は減らないのです。

中堅企業への支援策を拡充しながら最低賃金を引き上げていけば、小規模事業者は減りますが、国全体の雇用は減りません。産業構造は強化されます。労働生産性も賃金も上がります。商工会議所の会員数は減るかもしれませんが、日本という国の運命を商工会議所のためにダメにするわけにはいきません。

すでに日本が直面している人口減少は、国難以外の何物でもありません。このような困難な時代に立ち向かうためには、最低賃金さえ引き上げればいいとか、最先端技術によって対応しさえすればいいなどという、単純な話ではありません。総合的な政策パッケージが絶対に必要です。

日本経済の問題の研究を約6年間かけて行ってきました。日本に30年以上住んで、素晴らしい半生を送ることができた私なりの恩返しのつもりです。生産性に関する本を6冊執筆し、多数の記事も発表しました。

多くの皆さんからの批判、指摘、疑問をいただき、そのたびに自分自身の分析も深めてきました。その結果、この問題に対しては、私の理論は一種の完成に至ったと自負しています。皆様に感謝申し上げます。

今振り返ってみると、かつて実行された所得倍増計画は素晴らしい政策でした。人口減少の時代には、やはり「第2次所得倍増計画」が必須だと思います。1日も早くコロナが終息して、「第2次所得倍増計画」が実行されることを祈ります。


     2020-8-15




無能な社長を増やす「給料安すぎ日本」の大問題
「モノプソニー」をなくして経営者を鍛えよ


労働者を安く買い叩いている「証拠」
前回の記事(日本人の「給料安すぎ問題」の意外すぎる悪影響)で説明したとおり、「新monopsony論」では、雇用者側の力が強くなりすぎると企業の平均規模が小さくなり、生産性が下がって、所得水準が低下するとされています。


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この現象が本当に起きているかは、有効求人倍率を見れば確認できます。

新古典派の経済学では、労働市場は完全競争の状態にあると考えます。完全競争下では、賃金水準は需給の関係によって決まるため、経営者はその水準で労働者を雇用することしかできない、いわば受身の立場にあるとされています。経営者が賃金に影響を与えることはできないとされているのです。

この理屈が正しいとすると、経営者が求人をする場合、市場価格に則した賃金を提示して募集を行い、一定の期間を経て、すぐに働き手が見つかることになります。

逆に、有効求人倍率が高いまま推移しているとすれば、企業が出している条件で働き手が見つからない状態が続いているということになるので、経営者が需給関係を逸脱した低い賃金を提示し続けていることを意味します。それでも求人を継続するということは、経営者側がモノプソニーの考えを持っており、市場価格を下回った賃金でも採用できる労働者がいると期待しているということになります。


モノプソニーの力が大きく働くと、規模の小さい企業が増えます。規模の小さい企業が増え、全企業の平均規模が小さくなるほど、小規模事業者を中心に有効求人倍率が高くなり、高いまま推移するはずです。実際の数字を確認すると、日本ではまったくその通りのことが起きてきました。


やはり中小企業、とりわけ小規模事業者で、モノプソニーの力が極めて強く働いていると考えることができると思います。

有効求人倍率とは企業の求人数を求職者数で割ったものなので、この数字が高いときは潤沢に職がある、すなわち良い状態だと考えられがちです。しかし実際は、有効求人倍率が高止まりしているということは、自慢すべきものではないどころか、日本の労働市場が極めて非効率な状態にあることを示しているのだと認識を改めるべきです。

実は最低賃金を上げると雇用が増える
また新古典派経済学では、賃金は労働市場の需給関係によって決まると考えるので、最低賃金を引き上げると、その分だけ最低賃金で働いている労働者が失業すると主張します。

一方で「新モノプソニー論」では、適切に最低賃金を引き上げると、最低賃金で働いている労働者の雇用は逆に増えると考えます(参考:日本人の「給料安すぎ問題」はこの理論で解ける)。

実際に日本の状況を確認すると、新モノプソニー論の示唆するとおりのことが起きていたのは明らかです。第二次安倍政権が発足した2012年から2019年の間、最低賃金は年平均22円ずつ引き上げられてきたのにもかかわらず、雇用は431万人も純増しています。

増加した就業者の内訳は、65歳以上が321万人増加で、全体の74.5%を占めます。男女別では、女性が338万人増加し、そのうち65歳以上が139万人でした。

増加した就業者に65歳以上の高齢者や女性が多いことを考えると、最低賃金で働いている人が減少していないどころか、増加したのは明らかです。

日本のいわゆる有識者がよく主張している、「最低賃金を引き上げると、若い人と最低賃金で働いている人が失業するぞ」という脅しは、エビデンスのない俗説的感情論であることがわかります。

イギリスも1999年以降、最低賃金を2.2倍も引き上げてきましたが、失業率は1970年代以来の低水準を維持しています。

モノプソニーの抑止には最低賃金引き上げが有効
さて、モノプソニーの力があまり強く働かないよう制限するのに有効な政策が、適切な最低賃金の引き上げだとされています。

最低賃金が低ければ低いほど、小規模事業者が増えます。経済合理性が乏しい規模の小さい事業者でも、人件費を低く抑えられるので、存続できてしまうのです。つまり、最低賃金を低く抑え続けることは、小規模事業者にとって最大の優遇策なのです。

人材の評価と最低賃金水準のギャップは、ある意味で国が認めているモノプソニーの幅だと考えられます。実際、日本は人材の評価と最低賃金水準のギャップが著しく大きいことが確認できます。OECDのデータによると、2018年の日本の最低賃金は所得の中央値の42%しかなく、29カ国中第27位と、極めて低い水準にとどまっています。ほとんど発展途上国レベルです。


その結果、小規模事業者の数が増え、その国の生産性は低下するはずです。日本企業の小規模事業者の生産性を確認すると、大企業の41.5%にあたる342万円です。雇用者数が同じ場合、小規模事業者で働く人の比率が大きくなると、国の生産性は間違いなく低下します。


小規模事業者が増加すると、もう1つ大きな問題が生じます。それは、経営者の質が低下することです。

経済学では、同じ国の同じ業種の中に、大企業、中堅企業、小規模事業者とさまざまな規模の企業が存在するのは、経営者の質に要因があるとされています。各企業の規模は、経営者の能力の反映だとされているのです。従業員数300人の企業の従業員数がなぜ300人なのか、その理由は、この会社の経営者が300人の従業員を抱える能力を持っているからだということです。

日本ではこういうことをハッキリ言うと嫌われてしまうかもしれませんが、小規模事業者の経営者の能力は、極一部の成長が著しい事業者以外、雇える従業員の少なさが示すとおり、とても低いのです。

「小さい会社は経営レベルが低い」は世界の常識
日本の文化ではありえないかもしれませんが、海外の論文では当たり前のように、「小規模事業者は経営のレベルが低い」と書かれています。経営者の能力が低いから規模が小さく、規模が小さいから生産性が低いという関連性があるのです。

実際、「Measuring and explaining management practices across firms and countries」の分析によると、経営の質と生産性の間には、0.81という非常に強い相関係数が認められます。また、強い因果関係があることも検証されています。

小規模事業者の経営のレベルが低い理由の1つは、企業が小さくなるほど、家族経営になる確率が高くなるからだとされています。

家族経営では、経営能力が高い最も適切な人ではなく、経営者の子ども、特に長子が会社を継ぐことが多くなります。選べる人材の幅が限られますので、どうしても経営者の質が下がってしまうのです。事実、家族所有・家族経営・長子による事業継承は、非常に質の低い経営を招く要因であると統計的に分析されています。


面白いことに、生産性が相対的に高いアメリカとドイツでは、社長が長子である割合が3%なのに対し、生産性が相対的に低いフランスとイギリスでは、その割合が14〜15%と高いのです。それを反映して、経営の質の評価も低くなっています。

経営者の能力が低い企業は、本来なら競争によって淘汰されます。しかしモノプソニーの力が強く、給料が安く抑えられると、能力の低い経営者でも何とか会社を潰さずにすみます。

簡単に言うと、モノプソニーの力が強くなればなるほど、本来は経営者になるべきでない人でも経営者でいつづけられるため、小規模事業者が増え、全体の給料水準が引き下げられるという、非常にありがたくない結果を招くのです。

だから、政府は最低賃金を引き上げていくことで経営者に刺激を与え、経営者が低賃金にあぐらをかいて怠けてしまわないようにすることが大切なのです。

経営者こそ「結果責任」が問われるべき
さて、このように書くと、日本ではなぜか「中小企業の社長だって頑張っているんだから、酷いことを言うな」という反発が起きます。一方、給料が安くて困窮している労働者を「自己責任」と責める風潮もあります。

これは、本来は逆であるべきです。

経営者は事業が大成功したときのメリットを最大限に享受する立場ですし、ますます減少する労働者という貴重な資源を使っているのですから、結果責任を求められて当然です。日本は労働者の人材評価が極めて高いにもかかわらず、生産性は世界第28位です。労働者の力を引き出せていない経営者の評価が低いのは当然です。これは明らかに労働者の問題ではなく、経営者の問題です。

一方、立場の弱い労働者はモノプソニーの力で「買い叩かれて」いるのですから、一方的に「自己責任」と責められるべきではありません。日本ではなぜか、責められるべき経営者が守られ、守られるべき労働者が責められるという、あべこべな事態になってしまっているのです。

何より大切なのは、給料が安いことによって経営者が受けるメリットは、社会全体に対するマイナスより小さいことです。この問題を放置しては、人口減少下、社会全体が衰退して、国家が弱体化することを忘れてはいけません。

日本はこれから人口が大きく減少します。しかも、世界に冠たるモノプソニー大国になっており、低い生産性を引き上げることができなくなってしまっています。

こうなってしまった以上、最低賃金を段階的に引き上げ、モノプソニーの力を是正するしかないでしょう。そうすることによって、日本でも世界でも確認されているように、小規模事業者の数が減り、中堅企業と大企業に労働者が移ります。これら生産性の高い企業で働く労働者の割合が増え、全体の所得水準が上がるはずです。

もちろん、労働力の大規模な移動は急にできるものではないので、適切な最低賃金の引き上げを続ける一方で、徐々に中堅企業の支援を強化するべきです。日本経済が再生するシナリオはこれしかありえません。


       2020-6-25




コロナ後に「日本人の生活水準」を下げない秘策
「生産性を高めない企業」への支援はやめよう


生産性を高めないと日本人の生活水準は劇的に低下する
先日発表した「コロナ禍『企業援助と財政再建』を両立する方法」という記事では、なぜ日本が経済政策を変えるべきなのかを説明しました。


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GDPは「人口×生産性」で決まります。日本は今後何十年にもわたって人口が減少するので、減ることのない社会保障費を負担し続け、制度を維持するためには、生産性を高めるしかありません。

生産性を上げていかないと、日本人の生活水準は劇的に低下します。これだけは断言できます。

日本は国際競争力が大変高く評価されています。しかしながら生産性は、先進国の中でも最低レベルの世界第28位です。

このように日本の生産性が極めて低くなってしまっているのは、とことんまで突き詰めて分析すると、ほとんどの日本企業の規模が極めて小さいからだという結論に行きつきます(参考:「日本は生産性が低い」最大の原因は中小企業だ)。日本の生産性が低い根因は、企業の平均規模がアメリカの6割、欧州の4分の3しかないからです。



日本には小規模事業者が305万社もあります。これら小規模事業者の平均従業員数はたったの3.4人です。また中堅企業のカテゴリーの企業でも、日本の場合、平均従業員数はたったの41人です。これはEU28カ国平均の104人を大きく下回っています。

中小企業の定義を「500人未満」に引き上げるべき
このように小さい企業ばかりになってしまった理由の1つは、国の政策にあります。日本では中小企業が非常に小さく定義されているうえ、手厚く優遇されてきたため、中小企業に人的資源が集中してしまい、中小企業が増えたのです(参考:コロナ禍「企業援助と財政再建」を両立する方法)。


「日本企業の規模が小さいことには経済合理性がある」「中小企業の生産性が低いのは大企業による搾取が原因だ」「生産性が低いのは日本人のサービスのレベルが高いからだ」など、さまざまな反論があります。

しかし、それらはただの根拠のない妄想です(それぞれ「『日本は生産性が低い』最大の原因は中小企業だ」「生産性低迷は『下請けイジメのせい』という誤解」「サービス業は『日本の低生産性』の主犯ではない」参照)。

日本では中小企業の定義は業種によって異なりますが、それぞれの業種で働いている人数を基準に加重平均をとると、「169人未満」になります。一方、EU28は250人未満、ドイツとアメリカは500人未満です。

中小企業を小さく定義すればするほど、企業の平均規模が小さくなって、国の生産性が低下します。「中小企業の定義」は、実は企業の成長を妨げる要因として機能するのです(参考:コロナ禍「企業援助と財政再建」を両立する方法)。

小さい企業ばかりになってしまっている、この状況を変えるにはどうしたらいいのか??答えは明白です。

先ほども紹介したように、日本の中小企業の定義は他国と比較して小さすぎます。まずこれを、少なくとも「500人未満」まで引き上げるべきです。現状では業種別に基準が異なっていますが、これもやめて一律500人未満にすべきです。そうすることによって、成長を妨げる壁を取っ払うのです。

日本では、従業員数のほかに資本金も中小企業の基準として使われています。資本金が一定額以下ならば中小企業と認められ、さまざまな税優遇と補助金の対象となります。

これも廃止するべきです。この基準は、企業の成長と健全な経営に悪い影響を与えています。税優遇をするのであれば、「500人未満」という人数の基準だけで十分です。

世界中を見渡してみても、資本金を中小企業の定義に使っている国はまれです。なぜならば、資本金の多寡はビジネスのパフォーマンスには直接的な影響を与えないからです。さらに、企業に資本金を増やさないインセンティブを与えると、今回のコロナショックのような有事への対応力を下げてしまうおそれもあります。


中小企業の定義を変えるのに加え、日本は中小企業庁の使命自体を変えるべきです。

昭和時代の「中小企業庁」は、その使命を終えている
中小企業庁発足の際の使命は、その名が示すとおり、中小企業を守り、増やすことでした。中小企業庁はその使命に従い、どんなに生産性が低く、経済合理性に乏しい中小企業でも、守り、増やしてきました。その結果、日本の1社当たりの平均従業員数は1964年の25人から、1986年には12.9人まで激減したのです。


中小企業庁は中身と関係のない、数ありきの単純目標を使命にしてきたと言えます。霞が関ではよくあることです。誤解を恐れずに極論すると、中小企業庁をつくったこと自体が、日本の生産性を低迷させてきた要因だったとも言えるのです。

人口が急激に増加していた時代は、企業数を追求するだけでよかったかもしれませんが、人口が減少するフェーズに入った日本では、その役割はすでに終わっています。

人口が減少する時代には、企業の数が減らないよう守るのではなく、労働参加率と労働生産性のバランスをとりながら、企業の成長を促すことを使命にしなくてはいけません。

小規模事業者からスタートした企業のできるだけ多くを中堅企業まで成長させ、さらにその中からできるだけ多くの企業が大企業に成長するよう促すことを使命にするべきです(参考:「日本は生産性が低い」最大の原因は中小企業だ)。

現行の中小企業庁は、企業の成長をまったく後押しできていません。

たとえば、2012年から2016年の間、295万社の存続企業のうち、規模区分が拡大したのはたったの7.3万社でした。中小企業庁の政策は、企業の数には影響を及ぼしているのかもしれませんが、企業が成長するのにはほとんど貢献していない証拠と言えるでしょう。


日本は人口が比較的多く、国内市場は他国に比べると大規模です。しかしながら、大企業の数は他国に比べると非常に少ないのが実態です。

ドイツの人口は8300万人ですが、大企業は1万1379社あります。一方、1億2700万人の人口を誇る日本には、大企業は1万1157社しかありません。

しかも、日本で「大企業」としてカウントされる基準は欧州よりも小さいため、欧州基準では中小企業として扱われる企業も大企業としてカウントされています。同一基準で見れば、大企業の数はもっと少なくなるでしょう。

Fortune Global 500社が発表している世界の業種別企業規模ランキング(2019年)で、日本企業がトップになっている業種は55業種中たったの2業種です。アメリカは27業種、中国は11業種でトップの企業を輩出しています。このランキングは売り上げなどを基準に算出されています。

こういう事態が生じているのは、偶然ではありません。中小企業を小さく定義し、それら企業に手厚い優遇策を施すと、成長しないことにメリットを見出し、中小企業のままでいようとする企業が増えてしまうのです。

中小企業庁を「企業育成庁」に改編せよ
中小企業庁は今まで使命を見事に果たし、中小企業の激増に大成功しました。しかし、皮肉なことに、その結果、生産性を下げることにも大成功してしまったのです。

今回のコロナショックを機に、中小企業庁はその使命を変えるべきです。中小企業に生産性を高めるよう促すことを使命にするのです。それに伴い、中小企業の多くは今までのように小さいままでいることができなくなります。「中小企業庁」という名称も、「企業育成庁」などに変更するべきでしょう。

とにもかくにも、やるべきは生産性を高めることなので、そのために各企業が最適な規模まで成長することを促す政策に変えるべきです。

最も早急に手をつけるべきなのは、小規模事業者支援のあり方を大きく変えることです。たとえば補助金や税優遇の申請書には、生産性の時系列データや生産性向上の目標数値を必ず書かせたうえで、その目標を慢性的に満たせない企業は、補助対象から外すべきです。補助金はあくまでも子どもが自転車につける「補助輪」と同じで、いつまでもそれに頼るのは筋が違うからです。

その意味では、創業してから5年間、せいぜい7年間は優遇してあげてもいいでしょうが、それ以降、中堅企業に成長しない小規模事業者は、すべての優遇策の対象から外すべきです。

小規模事業者が中堅企業規模まで成長すれば、生産性が上がります。輸出もできるようになるかもしれませんし、社員の給料も上がります。技術力も向上し、有給休暇取得率も上がることでしょう。交渉力も増して搾取されにくくもなるでしょうし、税金も払えるようになるでしょう。

ドイツのように中堅企業で働く労働者の比率を高めることが、これからの日本の運命を決めるのです。






  菅首相はアトキンソン信者、中小企業に再編圧力



菅義偉新政権が始動した。コロナ禍からの脱却に向け、デジタル変革(DX)の推進や中小企業の生産性向上などを目玉に据える。景気の二番底への懸念が囁(ささや)かれる中、日本経済を回復軌道に復帰させるには民間の力を最大限に引き出す政策が欠かせない。

シャープの「中小企業化計画」で思い出す…中小企業の「定義」とは?

 菅首相が中小企業政策の中核をなす中小企業基本法の見直しに言及、中小企業政策のあり方はより一層、再編・成長志向へと歩を進めそうだ。

 日本の産業を支える中小企業は約358万社で全体の99・7%を占め、全体の約7割に当たる約3200万人の雇用を担っている。この数字は基本法の定義によるもので、同法は資本金または従業員数の要件で中小企業を定めている。例えば製造業は資本金3億円以下または従業員300人以下となっている。

 中小企業の中には、中堅企業となる実力があるにもかかわらず、あえて中小にとどまる企業もある。低利融資など政府による手厚い中小企業支援の享受などが理由とされ、中小企業の成長のインセンティブを阻害しているとの見方もある。中小企業庁の有識者会議では、同法の定義や支援策のあり方を含め、現在議論を進めている。

 また、先進国の中で低いとされる最低賃金について菅首相は全国的な引き上げを唱えている。最低賃金の引き上げによる中小再編を主張する、小西美術工藝社(東京都港区)社長のデービッド・アトキンソン氏と菅首相は親交がある。「菅氏はアトキンソン信者」(経産省幹部)といい、こうした側面から再編を促す可能性もある。

https://news.yahoo.co.jp/pickup/6371609


   2020-9-20    日刊工業新聞より